体重の超過は股関節への負担を増やして、軟骨のすり減りを進行させる原因となります。
体重が適正体重を超えている場合は、まずダイエットで体重を落として股関節への負担を減らしましょう。その他にもできるだけ重い荷物を持たない、女性の場合はハイヒールを避けるなど、日頃から股関節に過度な負担をかけない生活を心がけることが大切です。
臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)とは、股関節にある骨盤の骨(臼蓋:きゅうがい)の発育が悪く、太もも側の骨(骨頭:こっとう)がしっかりとはまり込んでいない状態です。関節軟骨に過剰な負荷がかかり、将来、変形性関節症を発症するリスクが高くなるのが特徴で、中高年女性に多く発症する変形性股関節症の約8割が臼蓋形成不全によるものと言われています。
骨盤と下肢(かし:脚)を繋ぐ股関節は、人間の身体の中でも最も大きな関節であり、身体の重みを支え、立つ・歩く・走るといった日常生活の動作に欠かせない働きをしています。
骨盤側にあるお椀のような形をした臼蓋(きゅうがい)に、大腿骨の先にある丸い球状の骨頭(こっとう)がぴったりはまり込む構造になっているため可動域が広く、周囲の靭帯や筋肉が安定性を高めることで上下左右へ自在に脚を動かすことを可能にしています。
大腿骨の動きを妨げることなく、骨盤から大腿骨への力を伝えるには、臼蓋が骨頭の8~9割を覆っている状態が理想的なバランスと言われています。
臼蓋形成不全は、骨頭の受け皿である臼蓋が小さく不完全なため、被りが浅く、骨頭がはみ出している状態です。臼蓋の大きさ・形状は成長に伴って変化していくことから、あくまでも「発育が良くない」という状態を示すために臼蓋形成不全と呼ばれています。※臼蓋は骨盤内の寛骨臼の一部であることから、寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)と呼ばれることもあります。
歩行時は体重の3~4.5倍、走ると4~5倍、床から立ち上がる時は10倍という具合に、日常生活において、股関節には常に体重の何倍もの大きな力がかかっています。
臼蓋形成不全は、通常よりも臼蓋の面積が狭く、体重を支える面が小さくなるため、関節により多くの負担がかかってしまうことが問題であり、関節軟骨が摩耗しやすくなるのが特徴です。
関節軟骨は、骨の表面を覆う柔らかい組織で、骨頭と臼蓋が直接ぶつかって壊れないよう緩衝材の働きをしています。若いうちは関節軟骨の厚みが十分にあり、特に不具合を感じることはありませんが、長年、酷使し続けて軟骨の量が徐々に減ってくると、股関節の痛みや動きの悪さといった症状を引き起こし、50~60代以降に変形性股関節症を発症するリスクが高くなることが分かっています。
臼蓋形成不全は欧米人に比べてアジア人に多く、特に日本人の女性に多く見られる病態です。
胎児期の状態(逆子や大きな赤ちゃんだったことなど)、幼少時の股関節の病気やケガなど、発育の過程において臼蓋の凹みが浅くなってしまうことが原因と考えられていますが、遺伝的な要素が関係するという研究もあり、現時点でははっきりとした原因が判明していません。
乳幼児の臼蓋形成不全の場合、軽度で臼蓋と骨頭が正しい位置にあれば、基本的に成長の過程で自然に改善すると考えられています。しかし、脱臼や亜脱臼が認められる場合や、形成不全の程度によっては、臼蓋形成不全の状態が残ってしまうことがあるため、適切な治療が必要になります。
現在、日本人の成人男性の0~2%、女性では2~7%が股関節形成不全と言われています。
幼少期の臼蓋形成不全による影響があると推測されますが、幼少期に特別な異常を指摘されていない方でも、思春期による活動量の増加や妊娠・出産といった股関節に負担をかける状況になって初めて診断されるケースもあります。
乳幼児の臼蓋形成不全は、X線検査などの画像検査で診断されるものであるため、特別な自覚症状はありませんが、太もものしわ(皮膚溝)が非対称、足の開きが悪い(開排制限:かいはいせいげん)といった所見が認められることから、乳児期の定期健診では、これらを基に臼蓋形成不全の可能性を指摘される場合があります。
年齢が上がり、形成不全が残ってしまった場合でも、10~20代のうちは軟骨の厚みが十分あるため、自覚症状はほとんどありません。しかし、軟骨の変性はすでに始まっており、30~40代頃になると、足の付け根の痛みや股関節が硬くて動かしにくい、といった症状が徐々に現れます。
軽症のうちは、身体を捻った時や長時間立ちっぱなしだった時などに一時的な痛みを感じる程度ですが、進行して変形性股関節症に移行すると痛みはさらに強くなります。軟骨がほとんど失われた末期になると、安静にしていても強い痛みが続くほか、左右の足の長さに差が出る「脚長差(きゃくちょうさ)」や、痛い足をかばおうとして引きずって歩く「跛行(はこう)」などの症状も起こるようになります。
臼蓋形成不全の診断には、以下のような検査を行います。
自覚症状の有無や開排制限の有無など、股関節の動きの確認などを行います。
X線による撮影を行い、臼蓋の形や発育状況、骨頭の収まり具合などを確認し、重症度を判定します。関節軟骨自体は画像には写りませんが、骨頭と臼蓋の隙間の間隔を見ることで軟骨の変性の有無(すり減り具合)を確認することも可能です。当院では「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)」という機器を導入しており、従来よりも被爆量が少なく、撮影時間も短縮できるため、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減できるのが大きなメリットです。
※その他、必要に応じて超音波検査やMRI検査、CT検査などを行うこともあります。
臼蓋形成不全は、進行すると変形性股関節症を発症するリスクが高く、痛みや関節の変形による機能障害などを引き起こすため、早期に発見し、患者さんの年齢や重症度に応じて経過観察や治療を行う必要があります。
成長に伴う臼蓋の変化や骨頭の適合具合などを確認するため、定期的に経過観察を行います。また、必要に応じて以下のような治療を行います。
成人の臼蓋形成不全の場合、変形性股関節症への進行を防ぐことが重要ですが、すでに変形性股関節症に移行している場合には、進行の予防と変形性股関節症のための治療が必要です。
体重の超過は股関節への負担を増やして、軟骨のすり減りを進行させる原因となります。
体重が適正体重を超えている場合は、まずダイエットで体重を落として股関節への負担を減らしましょう。その他にもできるだけ重い荷物を持たない、女性の場合はハイヒールを避けるなど、日頃から股関節に過度な負担をかけない生活を心がけることが大切です。
臼蓋形成不全や変形性股関節症による股関節の痛みは、はじめは左右どちらかの関節だけが痛くなるのが特徴です。しかし、痛い関節をかばおうとして一方に体重をかけているうちに反対側の関節も痛みが出るようになることが多く、同時に悪化していくことがあるため注意が必要です。
乳幼児の臼蓋形成不全では、定期的に経過観察を行い、股関節の状態を確認します。治療の開始が遅れると手術になる可能性も高くなるので、乳幼児健診で指摘された時は早期に受診して詳しい検査を受けましょう。
また、成人になってから診断された臼蓋形成不全は、変形性股関節症の前段階とも言える状態であり、進行すると日常生活に大きな支障をきたすようになります。早期に発見し、軽症のうちに治療を行うことで変形性股関節症への移行を防ぐことが大切です。