疾患
disease

筋・筋膜性腰痛

腰痛は、若い方から高齢の方まで年齢に関わらず発症し、日本人にとても多い症状の1つです。腰痛にはいくつかのタイプがありますが、「筋・筋膜性腰痛」は、腰の周りにある筋肉や筋膜に過度な負担がかかることで起こる腰痛で、発症すると強い痛みを伴い、スポーツはもちろん、日常生活にも大きな支障をきたすのが特徴です。

筋・筋膜性腰痛とは

筋・筋膜性腰痛は、腰に過剰な負担がかかり、腰回りの筋肉や筋膜が損傷することで腰の痛みを引き起こす疾患です。スポーツ時にかかる腰への強い衝撃や、無理な体勢をきっかけに発症するケースが多いですが、重い物を持ったり、長時間同じ姿勢を取り続けたりするなど、通常の日常生活の中で起こることもあるため注意が必要です。

急性の筋・筋膜性腰痛は、いわゆる「肉離れ」や「腰椎捻挫」と言われる状態で、何らかの急な動作をきっかけに発症します。強い痛みを伴うことが多く、急性腰痛の代表とも言える「ぎっくり腰」も、その多くは筋・筋膜性腰痛によるものと言われています。
一方、慢性の筋・筋膜性腰痛は、腰の使い過ぎ(オーバーユース)や、座りっぱなしの生活、姿勢の悪さ(前屈み姿勢)などが原因で腰の筋肉に疲労が溜まり、筋肉の緊張が強くなってしまうことで痛みを生じます。

筋・筋膜性腰痛を発症すると、強い痛みで日常生活に支障をきたすことも少なくありませんが、骨や神経などの損傷はないため、脊椎分離症や椎間板ヘルニアにみられる「足のしびれ」や「感覚異常」といった症状は伴わず、X線検査やMRI検査などの画像検査でも異常はありません。
通常、強い痛みは数日で徐々に和らぎ、3週間~1か月程度で完治しますが、腰に負担がかかる生活を続けていると痛みが長引いたり、再発を繰り返したりする可能性もあるため注意が必要です。

腰の構造と腰痛発生のメカニズム

腰は脊椎(せきつい:背骨)の一部で、「腰椎(ようつい)」という5つの大きな骨で構成されています。それぞれの骨の間には「椎間板(ついかんばん)」と呼ばれる柔らかいクッションのような組織が骨同士の衝撃を和らげる役目をしており、腹筋(腹直筋・内外腹斜筋・腹横筋など)と、背筋(脊柱起立筋・広背筋・大腰筋など)が背骨の周りを取り囲むようにして腰をしっかりと支えています。

また、全身の筋肉や皮膚の下には「第2の骨格」とも呼ばれる筋膜が張り巡らされており、それぞれの筋肉は筋膜によって繋がっています。腰や背中の部分にも「胸腰筋膜(きょうようきんまく)」と呼ばれる筋膜があり、この筋膜がさまざまな方向に自在に伸びることで、背中を丸めることなく良い姿勢を保てるようになっています。

ところが、何らかのきっかけで腰に負担がかかると、腰の特定の筋肉が過剰に働いてしまったり、筋肉や筋膜に小さな損傷ができたりして、本来、あちこちに伸びるはずの筋膜の動きが悪くなってしまいます。筋膜は、筋肉以上に痛みを感知するセンサーが多く、筋膜の動きが悪化したり、過度に引っ張られてしまったりすることで痛みのセンサーが作動し、腰に痛みを引き起こします。

(図)腰を支える筋肉と筋膜の構造

筋・筋膜性腰痛を引き起こすおもな要因

筋・筋膜性腰痛は、筋肉に負荷をかけるスポーツや日常の作業全般の動作で発症する可能性があります。具体的には、以下のような腰への強い衝撃や、前傾姿勢を維持して身体をひねる動作、悪い姿勢などが発症のおもな原因となります。

  • 野球のピッチング
  • ゴルフのスイング
  • バレーボールのジャンプの着地
  • 背筋を無理に伸ばす(過伸展)
  • 中腰での作業
  • 長時間のデスクワーク
  • 重い物を運ぶ

筋・筋膜性腰痛の症状

筋・筋膜性腰痛のおもな症状は、身体を動かした時の痛み(運動時痛)と、腰を押した時に脊柱起立筋や胸腰筋膜に沿って出る痛み(圧痛)です。特定の動作時だけ痛みが出るのではなく、「何をしても痛い」という状態になるのが特徴で、急性の場合は激痛で身動きが取れなくなることもあります。
通常、激しい痛みは数日で和らぎ、1か月程度で完治しますが、痛みの強い急性期に安静にしないで腰に負担のかかる生活を続けていると、痛みが慢性化して長引くこともあります。

一般的な筋・筋膜性腰痛の自覚症状

  • 腰周辺が硬く、動かしにくい
  • 腰の広範囲に痛みを感じる
  • 腰の曲げ伸ばし、ストレッチなどで痛みが悪化する
  • 咳やくしゃみをしても痛みが出る
  • 痛みがお尻や太ももの裏に響く

筋・筋膜性腰痛の検査・診断

腰痛には、筋・筋膜性のもの以外にも、骨や神経の異常で起こるものや、内臓疾患から引き起こされるもの、心因性によるものなどさまざまなタイプがあります。そのため、腰に痛みがある時には、以下のような検査を行うことで原因を特定し、それらの疾患との鑑別を行う必要があります。

問診・視診・触診

痛みの出る場所や痛みの強さ、その他患部の変化などを確認します。

X線検査

X線を使用して骨の撮影を行い、骨のズレや骨折の有無、骨の形、骨と骨の間隔などを確認する検査です。当院が導入している「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)」という機器は、従来よりも被爆量が少なく、撮影時間も短縮できるため、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減できるという大きなメリットがあります。

MRI検査

強い磁気と電波を使い、体内を断面像として画像にする検査です。
X線検査では分からない柔らかい組織(椎間板や神経、筋肉など)の状態を確認することが可能で、腫瘍や感染症といった重症疾患の有無の確認にも高い効力を発揮します。
必須の検査ではありませんが、症状が強い場合や長引く場合、さらに脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、圧迫骨折、腰以外の疾患などとの鑑別が必要な場合には検査を検討します。
当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けることができ、お子様の検査の場合には、親御さんも一緒に検査室に入っていただくことが可能です。
また、当院では受診日もしくは翌日中の迅速な検査を心がけることで、少しでも早く患者様に安心をお届けできるようにするとともに、しっかりとした根拠をもって治療方針を決定することが可能になると考えております。

(画像)MRI検査装置

CT検査

X線を使用し、体内を輪切りにした画像や立体の画像を撮影する検査です。
X線よりもさらに詳しい骨の状態の評価が可能です。必須の検査ではありませんが、X線では分かりにくい部分がある場合や、腰椎分離症などとの鑑別が必要な場合に行います。

(画像)CT検査装置

筋・筋膜性腰痛の治療

筋・筋膜性腰痛の治療は、運動療法が中心になります。
急性の筋・筋膜性腰痛は、少し動いただけで強い痛みを伴うため、発症直後はしばらく安静が必要な場合もありますが、安静期間が長くなりすぎると痛みが長引く原因となるほか、筋力や柔軟性の低下にも繋がるため、痛みが落ち着いてきたら速やかに軽いストレッチなどで身体を動かし始めます。
再発予防には、腰痛を引き起こす原因となる動作や姿勢など改善するためのトレーニングを行い、バランス良く身体を使えるように筋肉の強化を行っていくことが大切です。

筋・筋膜性腰痛のおもな治療内容

筋・筋膜性腰痛の治療には以下のような種類があります。

  • 薬物療法
    発症直後、強い痛みがある場合には湿布や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で患部の炎症と痛みを抑えます。
  • 装具療法
    痛みが強い時はコルセット(腰椎ベルト)を装着して腰椎や骨盤の負担を軽減し、安静を保ちます。
  • 物理療法
    筋肉や筋膜の損傷は、血流を良くすることで修復が早くなるため、急性期を過ぎたら患部を温める温熱療法や各種リハビリ装置を使用した治療を開始します。
    当院の物理療法スペースでは、牽引療法や赤外線治療、ウォーターベッド治療などを行っており、患者様お一人お一人の症状に合わせたリハビリ治療を受けていただくことが可能です。
  • 運動療法
    マッサージやストレッチを行い、硬くなり伸びにくくなっている筋肉の緊張を緩和します。
    急性期を過ぎ、痛みが落ち着いてきたら筋肉(腹筋、背筋)を強化するための筋力トレーニングを行います。また、ご自身のお身体の状態をチェックし、腰痛を引き起こす原因になっている悪い姿勢や動作を改善するための指導なども行います。
    当院の個別リハビリスペースでは、担当の理学療法士が1対1で患者様とじっくり向き合うことで、痛みの軽減と再発を予防するための治療を行っています。しつこい腰痛の改善にも効果が期待できる「マッケンジー法®*1」の認定セラピストも在籍しており、知識や技術を理学療法士間で共有することで、より質の高い治療の提供を目指しております。
    *1マッケンジー法®:1950年代、ニュージーランドの理学療法士ロビン・マッケンジーによって考案され、現在世界中で広く活用されている健康回復のための自己管理方法。腰痛や首の痛み、手足の痛みなどに対する検査・施術法として国際的に高い評価を得ている。
  • 体外衝撃波治療(痛みが慢性化した場合)
    体外衝撃波治療は、疼痛性疾患(とうつうせいしっかん:痛みを伴う疾患)の除痛を目的に、ヨーロッパを中心に普及した治療であり、一時的な症状緩和ではなく、組織再生を促進することができる新しい治療として近年、注目を集めています。
    患部に「衝撃波(しょうげきは)」と呼ばれる高出力の圧力波を照射して微細な損傷を作り、本来、体に備わっている治癒能力を高めて痛みを和らげ、組織の修復を行うのが特徴で、痛みが長引き慢性化した筋・筋膜性腰痛を改善する効果が期待できます。
    照射時には軽い痛みがありますが、麻酔の必要はなく、重い副作用なども報告されていません。
    残念ながら、現在、筋・筋膜性腰痛の治療では保険適用が認められておらず、通常は自費診療で行われていますが、当院ではより多くの方に高い効果を感じていただきたいとの思いから、通常行っているリハビリテーションの一環として追加料金を頂くことなく治療を提供しております。
  • 1回の治療時間:5~10分程度 ※予約の必要はありません。
  • 治療頻度:1~2週間に1回程のペースで通常3回程度
    ※治療の回数・効果には個人差があります。
(画像)体外衝撃波治療器

よくある質問

腰痛を予防するには日頃からどのようなことに気を付けたらよいですか?
体外衝撃波で筋・筋膜性腰痛は治りますか?治療時の痛みや副作用はありますか?

まとめ

筋・筋膜性腰痛の改善には、腰に負担をかけている原因を取り除くとともに、身体をバランス良く使えるように筋肉をつけて、根本的に腰痛を改善していくことが大切です。
当院では、さまざまな高精度の検査機器を駆使して、診断の内容や根拠、治療方針を分かりやすく「見える化」し、患者様お一人お一人の症状やお身体の状態に合わせ、最適な治療やリハビリをご提案させていただきます。腰の痛みにお悩みの方はぜひ当院にご相談ください。