腰椎椎間板ヘルニアを予防するには、腰への負担を減らすことが大切です。
適正体重を保ち、正しい姿勢(立つ、座る)を身に付けるとともに、長時間同じ姿勢をとらないことや、前屈みや中腰などの腰に負担のかかる動作を避けることも大切です。
また、日頃から適度なトレーニングを行い、「天然のコルセット」とも言われる腰回りの筋肉をしっかり付けておくことも発症予防には有効です。
※痛みが強い時には無理な運動は控えましょう。
腰椎椎間板ヘルニアは、腰に激しい痛みが起こり、お尻から足にかけてのしびれや感覚異常を伴う疾患です。20~40代の身体をよく動かす男性に多く発症し、前屈みや中腰の姿勢、重い物を持ち上げた時など、日常の何気ない動作をきっかけに突然痛みが出るのが特徴です。
人間の背骨(脊椎)は、「椎骨(ついこつ)」と呼ばれる24個の骨(椎骨)が連結してできており、腰の部分にある5つの大きな椎骨を「腰椎(ようつい)」と言います。それぞれの椎骨の間には弾力性のあるクッションのような「椎間板(ついかんばん)」という器官があります。
椎間板は、「髄核(ずいかく)」と呼ばれるゼリー状の組織の周りを「線維輪(せんいりん)」という軟骨組織がバウムクーヘンのように取り囲む二重構造になっていて、椎骨に加わる圧力を分散して衝撃を和らげたり、骨同士を連結して滑らかに動かしたりする重要な働きをしています。
しかし、繰り返し椎間板に圧力がかかり、髄核の周りにある線維輪に小さな亀裂(ヒビ)が入ると、何らかの動作をきっかけに髄核の一部が線維輪を突き破り、外に飛び出すことがあります。
「ヘルニア」とは身体の組織の一部が飛び出している状態を指す医学用語であり、腰椎と腰椎の間にある椎間板が飛び出すこのような病態を「腰椎椎間板ヘルニア」と呼んでいます。
背骨の構造上、下にある椎骨ほど大きな負荷がかかるため、腰椎椎間板ヘルニアは、5つある腰椎のうち、1番下にある第5腰椎と仙骨の間、または第4腰椎と第5腰椎の間の椎間板に多く発症します。ただし、高齢の方は、加齢による椎間板の変性(傷み)が起きていることも多いため、さらに上部にある第1~第4腰椎の間の椎間板で起こることもあり、髄核と一緒に老化した線維輪が飛び出すケースもあります。
腰椎椎間板ヘルニアを発症すると、押し出された髄核が後ろにある脊柱管の中を通る神経(脊髄神経、神経根)を圧迫するため、腰や足に強い痛みやしびれ(坐骨神経痛)が起こるのが特徴で、押し出される髄核が多いほど痛みやしびれも強くなります。
通常、発生直後の激しい痛みやしびれは3週間程度で和らぎ、2~3か月程で自然に消失することが多いですが、神経が圧迫されることで麻痺が起こり、歩行や排尿・排便障害を引き起こすケースや、症状が長引いて慢性的な痛みに移行してしまうケースもあるため注意が必要です。
※髄核が飛び出していても、痛みやしびれなどの自覚症状がない場合もあるため、腰椎椎間板ヘルニアの診断は、椎間板の状態と自覚症状を総合的に判断して行います。
以下のような症状が見られる時には、椎間板ヘルニアの可能性があります。
早期に受診して詳しい検査を受けることをおすすめします。
腰椎椎間板ヘルニアを発症すると以下のような症状が現れます。
腰からお尻にかけて強い痛みが出ます。
痛みは動作時だけでなく、安静にしている間も続き、前屈みに重心をかけたり、咳やくしゃみなどをしたりするとさらに強くなります。痛みを避けて無意識に身体を傾けているうちに背骨が横に曲がってしまう場合があり、これを「疼痛性側弯(とうつうせいそくわん)」と言います。
下肢痛とは、足の痛みとしびれのことです。お尻から太もも、ふくらはぎ、すね、足の甲や足裏、さらに指などにまで広がる痛みは「坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)」と呼ばれ、通常、身体の左右どちらか片側に見られることが多いですが、神経が障害される程度よっては両足に症状が出ることもあります。歩くと症状が悪化し、しばらく休むと痛みが和らいで再び歩けるようになる「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」が見られるのも腰椎椎間板ヘルニアの大きな特徴です。
神経が圧迫されて筋肉の麻痺が起こると、足に力が入らなくなったり、足の皮膚の感覚が鈍くなったりすることがあり、「階段を上がる時に足が上がりにくい」「歩行時につまずく」といった歩行障害が起こります。
膀胱や直腸をコントロールする馬尾神経が障害される重症の場合、「尿が出にくい」「便が出にくい」といった排尿障害や排便障害が起こります。
腰椎椎間板ヘルニアは、線維輪を突き破った髄核が神経を圧迫して痛みを生じます。
椎間板に亀裂が入ると自然に修復されることはないため、腰に負担のかかる動作を続けているうちに椎間板の変性が徐々に進み、ヘルニアの発症リスクが高まります。
ヘルニアの多くは、以下のような環境要因(姿勢や動作)、遺伝要因(体質や骨の形)などが複合的に関係して起こります。
腰椎椎間板ヘルニアの診断には以下のような検査を行います。
痛みのある場所や発症時期、痛みが強くなるタイミングなどの自覚症状を詳しく伺います。
また、診察ではヘルニアの位置や足の力や感覚を確認するため、以下のようなテストを行います。
強い磁気と電波を使い、体内を断面像として画像にする検査です。
椎間板や神経、筋肉などの状態を確認することで、椎間板ヘルニアの診断が可能です。当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けることができます。
つらい痛みを我慢し、検査まで何日もお待ちいただくのは患者様にとって不安であり、非常につらいものです。当院では、患者様に少しでも早く安心していただき、しっかりとした根拠を持って治療方針を決定するためにも、受診日当日もしくは翌日中に検査を行うことを心がけております。
X線を使用して骨の撮影を行い、骨のズレや骨折の有無、骨の形、骨と骨の間隔などを確認する検査です。X線検査では椎間板の状態を確認することはできませんが、腰痛や坐骨神経痛は他の疾患が原因で起こることもあるため、他の疾患との鑑別のために検査を行います。
当院では「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)」という機器を導入しており、従来よりも被爆量が少ない上、撮影時間も短縮できるため、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減できるのが大きなメリットです。
※患者様の状態に合わせ、CT検査や椎間板造影検査、神経根造影検査、神経検査などを行う場合もあります。
腰椎椎間板ヘルニアの治療には、「手術」と「保存的治療」の大きく分けて2種類があります。
発症後、2~3か月で自然に退縮して症状が治まるケースも多いため、通常は症状を和らげて治癒を促す保存的治療からスタートしますが、保存的治療だけでは痛みが改善しない場合や、さらに症状が悪化するような場合には手術を検討します。
※神経の障害の程度が大きく、歩行障害や排尿・排便障害がある場合は、緊急の治療が必要になるため、時期を待たずに手術を選択します。
痛みを抑えたり、腰の負担を軽減したりすることで回復を促します。
保存療法だけでは改善しない場合や、患者様が早期の回復を望まれ、施術を希望される場合には手術を検討します。ただし、診療ガイドラインでは、足の麻痺がある場合や排尿・排便障害がある場合には後遺症を予防するためにも48時間以内の緊急手術を行うことを勧めています。
腰椎椎間板ヘルニアの手術には以下のような種類があり、患者様の症状に合わせ、最適な方法を選択します。
腰椎椎間板ヘルニアは腰痛の中でも患者数の多い疾患ですが、発症すると日常生活に支障をきたし、強い痛みで睡眠が妨げられてしまうこともあります。
椎間板ヘルニアの80~85%は自然に退縮しますが、腰に負担をかける生活を続けていると、再発のリスクもあるため注意が必要です。
当院では、高性能な検査機器による検査結果を基に、患者様の状態をしっかり把握し、最適な治療方針を提案させていただきます。痛みをできるだけ早期に和らげるとともに、再発予防のための指導を行い、患者様の生活の質を高めるお手伝いをしていきたいと考えておりますので、つらい腰痛にお悩みの方は、早めにご相談ください。