疾患
disease

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)は、腰の部分の「脊柱管(せきちゅうかん:背骨の中にある神経の通り道)」が狭くなり、腰やお尻、足に痛みやしびれを生じる疾患です。
中高年に多く発症するこの疾患は、安静時の痛みは軽いですが、立ったり歩いたりすると症状が悪化し、長い距離が歩けなくなるなど日常生活に支障をきたすのが特徴です。

腰部脊柱管狭窄症とは

人間の背骨(脊椎:せきつい)は、首から腰の間にある24個の骨(椎骨:ついこつ)がパズルピースのように繋がっており、骨同士の衝撃を和らげるクッションの役割をする椎間板(ついかんばん)や、上下の椎骨を支える黄色靭帯(おうしょくじんたい)によってしっかりと連結されています。
また、脊椎の中には直径1~2cm程の脊柱管(せきちゅうかん)という空間があり、その内部には脳から続く「脊髄(せきずい:中枢神経)」と、脊髄の末端から伸びる「馬尾神経(ばびしんけい)*1」と呼ばれる末梢神経が通っています。
*1馬尾神経:腰部にある脊髄の末端から伸びている末梢神経の束で、足の動き全体をコントロールする働きがある。馬の尾のような形状をしていることからこの名前が付いている。

腰部脊柱管狭窄症は、何らかの原因で腰部の脊柱管がくびれ、細くなってしまう疾患です。神経が通るトンネルである脊柱管が狭窄(きょうさく:狭くなる)することにより、脊柱管の中にある神経も圧迫されてしまうため、神経の血流が低下して腰やお尻、足に痛みやしびれ、脱力、足のもつれといった症状が現れるのが特徴です。

腰部脊柱管狭窄症は加齢によって起こることが多いため、中高年以降の60~70代に発症数が増加し、高齢化の進む日本国内の患者数は推定580万人に上るとも言われています。
同じ脊椎の疾患である椎間板ヘルニアに比べ、安静時の痛みは軽度ですが、立つ・歩くといった動作をした時に痛みが強くなるのが特徴で、進行すると長い距離を歩くことができなくなるほか、脊柱管の狭窄が進むと排尿・排便障害などを引き起こすケースもあります。

(図)正常な腰部脊柱管と腰部脊柱管狭窄症の比較

腰部脊柱管狭窄症のセルフチェック

腰部脊柱管狭窄症の症状には以下のような特徴があります。
当てはまる項目がある場合には受診して骨の状態を調べる検査を受けることをおすすめします。

  • 歩行時に下肢(足)の痛みやしびれが出るが、休憩するとまた歩けるようになる
  • 後ろに反る姿勢がつらく、前屈みになったり、座ったりすると楽になる
  • 立ち上がると足の痛みやしびれが悪化する
  • 両足に痛みやしびれがある ※片足の場合もあり
  • 腰痛よりも足の痛みやしびれが強い
  • 下肢に力が入らない・入りにくい
  • お尻周りにしびれ感やほてりがある
  • 便秘、頻尿、尿漏れ、残尿感などがある

腰部脊柱管狭窄症のおもな症状

腰部脊柱管狭窄症のおもな症状は、腰から臀部(お尻)・足にかけて起こる痛みやしびれです。
安静時は軽度もしくは無症状ですが、立ち上がったり、歩いたりすると症状が悪化します。
これは背筋を伸ばすことで脊柱管が狭くなり、足全体の動きをコントロールする馬尾神経が圧迫されてしまうためであり、200~300メートル程度の歩行でも症状が悪化して歩けなくなることがありますが、前屈みの姿勢で休憩をとると脊柱管が広がるため痛みやしびれが和らぎ、また歩けるようになります。
このように歩行と休憩を繰り返すようになることを「間欠跛行(かんけつはこう)」と言い、腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状として知られています。

症状が進行すると下肢の筋力が低下して長距離を歩くことができなくなり、安静時にも痛みやしびれが続くようになります。さらに脊柱管の狭窄が強まると排尿や排便に支障をきたし、尿漏れや失禁、尿閉(にょうへい:尿が出ない、出にくい)、便秘といった「膀胱直腸障害」を引き起こします。

分類による症状の特徴

腰部脊柱管狭窄症は神経の圧迫される場所によって現れる症状が若干異なり、以下の3種類に分類されます。

  • 馬尾型(ばびがた)
    馬尾型は、脊柱管の中心部分を通る馬尾神経が圧迫されている状態です。
    両側の足や陰部にしびれや冷感といった感覚異常が起こるのが特徴で、歩行によって症状が悪化します。さらに進行すると膀胱直腸障害が起こり、排尿や排便に支障をきたします。
  • 神経根型(しんけいこんがた)
    神経根型は、馬尾神経からさらに分岐している細い神経根が圧迫されている状態です。
    身体の片側のお尻から足にかけて放散するような痛みやしびれが起こるのが特徴で、圧迫される神経根によって痛みの出る部位や範囲は異なります。
  • 混合型(こんごうがた)
    馬尾型と神経根型両方の症状が起こることがあります。
(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会

腰部脊柱管狭窄症の原因

脊柱管の狭窄の最も多い原因は加齢です。
老化による腰椎の変形や椎間板の変性のほか、上下の腰椎を支える黄色靭帯に緩みや硬化、肥厚(厚みを増すこと)などが起こることで発症します。
そのため腰部脊柱管狭窄症は、50代以降の中高年以降に発症するケースが多くなっており、体重の重い方や、若い頃に重い物を運ぶ仕事をしていた方など、腰に負担がかかる生活をしていると発症のリスクが高くなるため注意が必要です。
また、加齢以外の要因として、生まれつき脊柱管が狭くなっている先天性(発育性)や、分離すべり症などの腰椎の疾患または外傷などで発症することもあります。

腰部脊柱管狭窄症の検査・診断

腰椎椎間板ヘルニアの診断には問診による症状の確認と以下のような検査を行います。

問診・視診・触診

症状の内容、発症時期、年齢、既往歴のほか、どのような時に症状が出るかなどを詳しくお伺いします。また、痛みやしびれの出る部位を確認し、感覚障害や筋力の低下、反射異常といった神経学的な所見の有無も確認します。

X線検査

X線検査で腰椎の撮影を行い、骨の形やズレ、骨折の有無、骨と骨の間の間隔などを確認します。X線検査である程度の推測はできますが、確定診断にはMRIや脊髄造影検査などを行う必要があります。当院では「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)という機器を導入しており、従来よりも被爆量が少なく、撮影時間も短縮できるので、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減できるのがメリットです。

MRI検査

強い磁気と電波を使い、体内を断面像として画像にする検査です。X線検査では分からない椎間板や神経、筋肉などの状態を確認できるので、腰部脊柱管狭窄症の確定診断が可能です。
当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けることができます。
また、当院では患者様を長くお待たせすることなく、受診日当日もしくは翌日中にはMRI検査を受けていただくことが可能です。迅速に検査を行うことで、患者様のご不安を減らし、しっかりとした根拠を持って治療方針を決定することができるのが最大のメリットです。

(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会
(画像)MRI検査装置

脊髄造影検査

脊髄の外側にある硬膜内に造影剤と呼ばれる薬剤を入れてX線やCT撮影を行う検査です。
神経の狭窄度を実際に目で見て確認することが可能です。
この検査は、MRI撮影を受けられない方や、MRI検査だけでは診断がつかず、より詳しい検査が必要な場合などにのみ行います。
※入院が必要な検査です。検査の必要がある場合には、石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。

(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会

選択的神経根ブロック

脊柱管の狭窄により障害を受けている神経に局所麻酔やステロイド剤などの薬剤を注射する検査です。画像上で脊柱管の狭窄が見られる部分と一致して症状が出ているかを調べます。
この検査は、狭窄が複数の場所にあり、痛みやしびれの症状が出る原因となっている場所を見極める必要がある場合に行います。

ABI検査

上腕と足関節の血圧・脈拍を測定し、その差を確認する検査です。この検査は、間欠跛行がある場合に行います。間欠跛行は腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状ですが、動脈硬化などの血管の疾患で起こることもあるため、それらの病気との鑑別を行い、確定診断のために行います。

腰部脊柱管狭窄症の治療

腰部脊柱管狭窄症の治療は、薬物や運動、リハビリなどで症状の改善を目指す「保存的治療」と、患部の圧迫を取り除き、根治を目指す「手術療法」の大きく2種類があります。

保存的治療

進行を防ぎ、症状のコントロールを目指すための治療です。
一度狭くなった脊柱管が自然に広がることはありませんが、軽度または中等度の場合、急激に症状が悪化することはなく、神経の圧迫が続いていても下記のような保存的治療を続けることで症状が改善するケースがあります。おもな保存的治療には以下のようなものがあります。

  • 薬物療法
    血流改善薬、消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などの処方を行います。
    症状が強い場合には、痛む部分の神経に局所麻酔薬やステロイドなどを注入して早期に痛みを和らげる注射(神経根ブロック、硬膜外ブロック、仙骨ブロック)を行うこともあります。
  • 装具療法
    腰椎ベルト(コルセット)で腰の固定を行うことで痛みやしびれなどの症状を軽減します。
    運動療法を行う時にもコルセットを装着して行う場合があります。
  • 物理療法
    痛みの緩和や血流促進、筋肉や関節の動きを改善するため、各種リハビリ装置を使用した治療を行います。当院の物理療法スペースでは、牽引療法や赤外線治療、ウォーターベッド治療などを行っており、患者様お一人お一人の症状に合わせたリハビリ治療を受けていただくことが可能です。
  • 運動療法
    お身体の状態に合わせたマニピュレーション(徒手受動術:施術者が手や器具で力を加える手技)で、負担のかかっている筋肉を揉みほぐして痛みを軽減します。また、痛みが落ち着いたタイミングで、可動域を広げるためのストレッチや、ウォーキングなどの適度な運動、腹筋や背筋を強化するトレーニングなどを開始します。当院では個別のリハビリスペースで、担当の理学療法士が1対1で患者様に適した治療やトレーニング、身体の使い方や日常生活動作などの指導を行っています。時間をかけてじっくり向き合うことで、つらい症状の改善はもちろん、日常生活の質の向上を見据えたアプローチが可能です。

手術療法

さまざまな保存的治療を行っても症状が改善しない場合、もしくは進行して足の筋力の低下や歩行障害が見られ、日常生活に支障をきたすような場合には手術療法を検討します。
特に両足に症状がある場合は保存的治療だけでは改善が難しく、手術を行うケースが多くなります。
近年では内視鏡を使った低侵襲な手術も行われています。切開する大きさを最小限に抑えることで、筋肉の損傷を減らし、出血量も少なくなるため、術後の痛みを軽減したり、社会復帰までの期間を短縮したりする効果が期待できます。
腰部脊柱管狭窄症の手術には以下の2種類があります。

  • 神経除圧術
    脊柱管を圧迫している骨の一部(椎弓:ついきゅう)や椎間板、靭帯などを切除して脊柱管を広げ、神経の圧迫を取り除く治療です。
  • 除圧固定術
    除圧術で脊柱管を広げた後、背骨に金属やボルトを入れて固定することで、神経の圧迫が起こらないようにする治療です。「腰椎変性すべり症」という腰椎がずれてしまう疾患で背骨の状態が不安定になり、腰椎の狭窄が起きている場合などに行います。
    ※手術治療が必要になる場合には、適切なタイミングで石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。

よくある質問

足腰に痛みやしびれがあります。腰部脊柱管狭窄症でしょうか?
日常生活ではどのようなことに気を付けたら良いでしょうか?

まとめ

腰部脊柱管狭窄症は、加齢によって起こる老化現象の1つですが、日頃から腰回りの筋肉を鍛え、腰の負担がかかりにくい正しい姿勢や動作を身に付けることで、進行を緩やかにしたり、つらい症状を軽減したりすることが可能です。
当院では高性能な機器を用いた検査結果から正確な診断と治療方針の決定を行い、それぞれの患者様のお身体の状態に合わせた適切な治療や指導を行っています。
下肢に痛みやしびれなどがある場合にはぜひ早期にご相談ください。