腰椎脆弱性骨折(ようついぜいじゃくせいこっせつ)とは、背骨の一部である腰椎(ようつい:腰の骨)がもろくなり、軽い衝撃などが原因で起きてしまう骨折のことです。この骨折は、高齢者や骨粗鬆症患者さんに起こりやすく、患者様やご家族が気付かないうちに骨折していることもあるため、「いつのまにか骨折」とも呼ばれています。
腰椎脆弱性骨折(ようついぜいじゃくせいこっせつ)とは
「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」は、スポーツや交通事故といった強い衝撃で起こる一般的な骨折とは異なり、骨の強度が低下することにより日常生活上のごく軽い負荷などで簡単に骨折してしまうのが特徴です。この骨折は、太ももの付け根(大腿骨近位部)や手首(頭骨遠位端)、腕の付け根(上腕骨近位部)、背中(脊椎椎体:背骨)などに起こることがあり、椎体骨折の中でも腰にある5つの骨(腰椎:ようつい)に起こるものを「腰椎脆弱性骨折」と呼んでいます。
腰椎脆弱性骨折は、身体の重みで縦軸方向の力が加わることにより腰椎が圧迫され、骨が空き缶のように潰れてしまうのが特徴です。いきなり骨折するのではなく、じわじわ潰れるように進行するため強い痛みが出ない場合も多く、骨折している事に気付かないまま生活している方も多数いると考えられています。
椎体は、一度、潰れて変形してしまうと、元通りの形に戻ることはありません。
それどころか、適切な治療を行わずに放置してしまうと、数年のうちに他の椎体にも2か所、3か所と連続して新たな骨折が起きる可能性が高くなります。なぜなら人間の背骨(脊椎)は24個の椎体が積み重なる構造になっており、1つの骨折をきっかけに脊椎全体のバランスが崩れると、周囲にある他の椎体に余分な負荷がかかって骨折が起こりやすくなるからです。このように次々と骨折してしまう状態を「骨折の連鎖」と呼んでいます。
そもそも脆弱性骨折を起こす方は、全身の骨の強度が低下していることが多いため、度重なる骨折で徐々に足の筋力や運動機能が失われるとつまずきや転倒が起こりやすくなるほか、最終的に自分の体重を支えられなくなってしまうと、「寝たきり」になるリスクが高くなります。
実際、厚生労働省が行った調査*1では、「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)「高齢による衰弱」に続き、「骨折・転倒」が高齢者の介護が必要になるおもな原因の第4位となっています。
*1 厚生労働省 2019年国民生活基礎調査 令和元年国民生活基礎調査
このように脆弱性骨折による活動性の低下は、高齢の患者様の身体の衰えをさらに加速させ、生活の質(QOL)を下げる大きな要因であり、ひいてはその後の寿命にも影響を及ぼします。
健康上の問題がなく、日常生活に制限なく暮らせる「健康寿命」を延ばし、いきいきとした老後を送るためにも、脆弱性骨折が起きた時は、早期に適切な骨折の治療を行うとともに、骨のさらなる脆弱化を防ぎ、次の骨折を起こさないための治療も併せて行う必要があります。
いつのまにか骨折のセルフチェック
いつのまにか骨折は60代から発症数が増加しますが、早い人では50代で起こる場合もあります。中高年以降の方で以下の症状に心当たりがある方は、骨の強度が低下して腰椎骨折が起きている可能性があります。早期に受診して詳しい検査を受けることをおすすめします。
- 最近、背が縮んできた気がする(2cm以上縮んでいる場合は要注意)
- 転んだり、けがをしたりしたわけでもないのに腰や背中が痛い
- 背中が曲がってきた(丸まってきた)
腰椎脆弱性骨折の原因
腰椎脆弱性骨折の多くは、加齢に伴う以下のような原因で起こります。
骨粗鬆症
腰椎脆弱性骨折の最大の原因は骨粗鬆症です。
骨粗鬆症は、骨密度(こつみつど:骨の量)の低下により、骨がもろく、スカスカになる疾患です。重い物を持ち上げる、尻もちをつく、身体を捻る、くしゃみといった軽い衝撃でも簡単に骨折してしまうほか、背骨が自分の体重を支えきれなくなって折れてしまう場合もあります。
骨粗鬆症は閉経後の女性に多い疾患です。閉経によりホルモンバランスが崩れると、骨代謝*2に大きな影響を及ぼすエストロゲンの分泌が減少する上、体内のカルシウムの吸収も悪くなります。骨密度の値が、若い人(20~44歳)の80%未満になると「骨量減少」、70%未満になると「骨粗鬆症」と診断され、いつ骨折してもおかしくない状態のため早期の治療が必要になります。
骨粗鬆症は閉経以外にも、運動不足や飲酒、喫煙、過度のダイエット、偏食、ステロイド剤の長期服用、糖尿病や関節リウマチ、甲状腺機能亢進症など、さまざまな原因で起こることがあり、男性でも年齢が上がるにつれて発症数が増加するため、油断は禁物です。
*2 骨代謝:古くなった骨を壊し、新しく骨を作り替える骨の新陳代謝のこと。
サルコペニア
サルコペニアとは、老化現象の1つであり、加齢により筋肉量や筋力が減少していく状態です。高齢者の「つまずき」や「転倒」はご本人の不注意によるものと思われがちですが、実は筋力の低下が原因で起きている場合が多く、骨密度が基準値内であっても、骨を支える筋肉が衰えてしまうと骨にかかる負担が増えるため、骨折のリスクが高くなります。
現時点では、筋肉を増やす治療というものはありませんが、筋力・筋肉量を向上させるためのトレーニングを行うことで進行を緩やかにすることは可能です。できるだけ早いうちから適切な運動習慣を作り、筋肉の貯金(貯筋)を作っておくことが大切です。
※上記以外に、がんの腰椎転移などが原因で起こる脆弱性骨折もあります。
腰椎脆弱性骨折の症状
骨粗鬆症による腰椎脆弱性骨折は、無症状のまま進行する場合も多いですが、日々の生活で以下のような症状が骨折に気付くサインとなる場合が多いです。
背中の痛み
骨折や、骨の変形による筋肉への圧迫により、腰や背中に慢性的な痛みが現れます。
寝返りや起き上がる時など、動作時に痛みが出て(強まり)、安静時には痛みが和らぐのが特徴です。尻もちや転倒など、何らかの衝撃を受けて骨折した場合、急性期に強い痛みを伴う場合もありますが、強い痛みは徐々に和らぎ、その後は慢性化した痛みが残るケースが多いです。
※腰椎の中にある「脊柱管(せきちゅうかん)」という部分には中枢神経や馬尾神経(ばびしんけい:足の動き全体を司る末梢神経の束)といった身体の動きを司る重要な神経が通っており、骨折によって変形した椎体骨がこれらの神経を圧迫すると、背中の痛みとともに下肢の痛みやしびれ、筋力の低下といった神経障害による症状を伴うこともあります。
背中が曲がる
背骨(脊椎)が圧迫されるため、背中が丸くなって前屈みになり、横にも曲がります。
お腹が前に出てくるのも特徴です。
身長が縮む
腰椎の骨が潰れてしまうことで、身長が低下します。
※2cm以上の身長低下は、腰椎脆弱性骨折の可能性があります。
内臓機能の低下
腰が曲がることで内臓が圧迫され、息苦しさや食欲不振、胃液の逆流による逆流性食道炎(胸やけ、胃の痛み)、便秘などさまざまな症状が出る可能性があります。
腰椎脆弱性骨折の検査・診断
腰椎脆弱性骨折の検査には以下のような種類があります。
骨粗鬆症は、痛みなどの自覚症状がないまま進行します。特別な症状がなくても、身長の低下や姿勢の変化などに気付いた時には検査を受けることをおすすめします。
問診・視診・触診
過去の骨折歴の有無、自覚症状(痛みの出る場所や痛みの強さなど)、生活習慣などについて詳しくお伺いします。また、姿勢や身長の変化などの確認も行います。
X線検査
X線を使用して骨の撮影を行います。骨のズレや骨折の有無、骨の形、骨と骨の間隔などを確認することで確定診断が可能です。当院が導入している「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)」という機器は、従来よりも被爆量が少なく、撮影時間も短縮できるため、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減することが可能です。
骨密度検査(DEXA検査)
DEXA(Dual-energy X-ray absorptiometry:デキサ)は、微量のX線を使用して骨密度を調べる検査です。従来の検査のように手の骨で測定するのではなく、骨折が起こりやすい腰椎と大腿骨頚部(股関節の骨)を直接測定するため正確な測定が可能で、日本骨粗鬆症学会や世界各国のガイドラインも推奨している検査法です。即日の検査が可能で、当日中に結果をお知らせします。
CT検査
X線を使用し、体内を輪切りにした画像や立体の画像を撮影する検査です。
さまざまな角度からの断面を見ることができるため、通常のX線検査だけでは分かりにくい部分の骨折なども確認することが可能です。
必須の検査ではありませんが、神経症状がある場合や他の腰椎疾患との鑑別が必要な場合には検査を検討します。
MRI検査
強い磁気と電波を使い、体内を断面像として画像にする検査です。
X線検査では分からない柔らかい組織(椎間板や神経、筋肉など)の状態を確認することが可能で、腫瘍や感染症といった重症疾患の有無の確認にも高い効力を発揮します。
必須の検査ではありませんが、神経症状があり、他の腰椎疾患との鑑別が必要な場合には検査を検討します。
当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けていただけます。
また、当院では受診当日もしくは翌日中の検査を心がけていますので、検査結果を基に正確にお身体の状態を把握し、しっかりとした根拠をもって治療方針を決定することが可能です。
※その他、骨粗鬆症の中には多発性骨髄腫などの病気や内分泌疾患によって起こるものもあるため、それらの疾患が疑われる際には採血による血液検査などが必要になることもあります。
腰椎脆弱性骨折の治療
腰椎脆弱性骨折の治療は、骨折の程度や状態に応じて「保存的療法(手術以外の治療)」もしくは「手術療法」を選択します。また、DEXA検査で骨粗鬆症と診断された場合には、骨折の連鎖を防ぐための治療も併せて行う必要があります。
- 装具療法
軽度の骨折の場合には、椎体の変形を予防するためのコルセットを装着し、安静を保つことで「骨癒合(こつゆごう:骨折が治ること)」を待ちます。3~4週間ほどで痛みが和らぎ、3~6か月程度で治癒するケースが多いです。
- 薬物療法
痛みが強い場合には、症状を和らげるために鎮痛剤の処方を行います。
また、骨粗鬆症の治療が必要な場合は、骨抑制効果の証明されている骨吸収抑制剤や骨形成促進剤、ホルモン剤、ビタミンD、ビタミンKなどの処方を行います。
骨粗鬆症の治療は、効果が出るまでに時間がかかります。治療効果を確認するため、定期的にX線検査や骨密度検査、血液検査などが必要です。
- 運動療法
骨折の状態が落ち着いてきた頃を見計らい、運動療法で少しずつ身体を動かします。
筋力トレーニングでは、骨にかかる負担を軽減し、身体のバランスを整えることで、転びにくい身体を目指します。また、ウォーキングや水泳、散歩などの運動は骨量を増やし、骨を強く・折れにくくする効果が期待できます。
ただし、適切な運動量や強度は骨折の状態などによって異なるため、画像検査や骨密度の検査結果を基に、お一人お一人に合わせたトレーニングを行っていくことが大切です。
当院の個別リハビリスペースでは、担当の理学療法士が1対1で患者様とじっくり向き合い、痛みの軽減と骨を強化するための指導や訓練を行っています。
- 手術療法
椎体の骨折がひどく、完全に潰れてしまっている場合には手術を行います。
神経症状が出ていない場合は、椎体に骨セメントを注入して潰れた椎体を補強する「経皮的椎体形成術(BKP:バルーン椎体形成術)」を行います。一方、骨折のズレが大きい場合や神経症状を伴うような場合は、ボルトやプレートを用いて骨折部位を固定する手術が必要になります。
手術後は出来るだけ早く日常生活に戻れるよう、早期にリハビリを開始します。
※手術治療が必要になる場合には、石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。
よくある質問
腰椎脆弱性骨折は予防できますか?
腰椎脆弱性骨折を予防するには、骨の強度を保つことと、転倒を予防することが大切です。
骨の脆弱化を引き起こす原因を減らすとともに、転倒を予防するための対策も行いましょう。
- カルシウム(牛乳など)、ビタミンD(魚類など)、ビタミンK(納豆、海藻など)、たんぱく質(肉、卵、大豆など)を積極的に摂取する
- 禁煙し、アルコールやカフェインの過剰摂取を控える
- 過度なダイエット、偏食をしない
- 安全性の高い服装を心がけ、外出時は杖などを利用して転倒を予防する
- 散歩や片足立ち(片足を5㎝程度上げて1分間持続する)、日光浴(1日20~30分)をする
- 定期的に骨密度検査を受ける(50歳以上の女性は1年に1回が目安)
- 骨粗鬆症と診断された場合、適切な治療を受ける
まとめ
背中が丸くなる、背が縮むなど、これまでは年齢のせいだと見過ごされていた症状も、実は「いつのまにか骨折」が原因である場合が少なくありません。ご自身の身体の重みで骨折を起こす腰椎脆弱性骨折は、周辺の骨に余計な負荷をかけてしまうため、次々と骨折する負のスパイラルに陥りやすく、寝たきりになるリスクが高いため、早期の治療が非常に大切です。
当院では、さまざまな高精度の検査機器を駆使し、お一人お一人の身体の状態を正確に診断した上で、症状の改善と骨の強度低下を抑えるための治療をご提案いたします。
姿勢の変化や身長の低下が気になる方、腰の痛みにお悩みの方は早期にご相談ください。