疾患
disease

首こり・肩こり(筋・筋膜性疼痛)

首こり・肩こりは、腰痛と並び日本人に多い症状です。特定の疾患ではなく、姿勢や生活習慣などによって起こる首こり・肩こりは、筋肉やその周りにある筋膜の癒着によって起こるものが多く、筋・筋膜性疼痛(MPS)と呼ばれています。筋・筋膜性の首こり・肩こりの場合、骨や関節に異常はありませんが、悪化すると症状が長引き、治りにくくなるため注意が必要です。

首こり・肩こり(筋・筋膜性疼痛)とは

首こりや肩こりは、1つの病名ではなく、首または肩周辺に起こる慢性的なコリや痛み、重だるさなどの症状を総称したものです。日本では腰痛と並び、肩こりに悩む方が非常に多く、2019年に行われた厚生労働省の調査*1によると、肩こりが日本人の有訴者率(自覚症状のある人の割合)の男性2位、女性では1位を占めています。

*1 厚生労働省 国民生活基礎調査 2019

首こり・肩こりには、頭・首の骨や関節の病気によるもの、内科的な疾患によるものなどさまざまな原因がありますが、その中でも多数を占めているのが、筋肉と筋肉を包む筋膜の癒着によって発症する「筋・筋膜性疼痛(MPS)」です。
筋・筋膜性疼痛は骨格筋*2が存在する所であれば全身どこにでも起こることがありますが、特に首や肩、背中、腰など姿勢を保つために必要な筋肉(抗重力筋)に起こりやすいと言われています。何らかの原因で首や肩に負担がかかり続けると、周辺の筋肉が過剰に緊張して硬くなり、血流が悪くなることで筋膜の癒着を起こし、痛みを生じると考えられています。
*2 骨格に沿って付いている筋肉。収縮することによって体を支えたり、動かしたりする働きをしている。

筋・筋膜性の首こり・肩こりは、女性に多く発症するのが特徴で、慢性化してしまうと一時的なマッサージや入浴で血流を改善した程度ではなかなか良くなりません。検査をしても骨や関節に異常はなく、血液検査でも特徴的な結果は見つからないため、はっきりした診断がつかないまま、数か月間、あるいは数年間もつらい症状に悩んでいる方も少なくありません。

近年、パソコンやスマートフォンの利用が増えたことなどにより、年齢に関係なく首こり・肩こりに悩む人はさらに増加傾向にあります。症状が重くなると、頭痛や吐き気、しびれなどを伴うこともあり、集中力の低下や意欲の消失など、患者様の生活の質(QOL)を大きく低下させてしまうため、早期に適切な治療を行うことが大切です。

筋膜の働き

筋膜とは、筋肉と皮膚の間にある薄くて白い膜のことです。
コラーゲンやエラスチンなどの水分を多く蓄えた物質で構成されており、身体の動きに合わせて組織と組織の間を滑るように動くのが特徴で、元の状態に戻る形状記憶の性質も持っています。
身体全体に張り巡らされた筋膜は、筋肉はもちろん、脳や心臓、内臓、骨、血管、神経などあらゆる身体の組織を包み込んでいます。それぞれの組織は筋膜に守られているおかげで適正な場所に留まることができ、身体の形状を保つ重要な働きをしていることから、筋膜は「第2の骨格」とも呼ばれています。

首こり・肩こり(筋・筋膜性疼痛)の原因

首や肩の周りには、僧帽筋(そうぼうきん)や肩甲挙筋(けんこうきょきん)、菱形筋(りょうけいきん)などの筋肉があり、重い頭や腕を支えているため常に緊張しています。
筋・筋膜性の首こり・肩こりは、これらの筋肉の強い緊張が続き、筋膜が正しく機能しなくなってしまうことで起こります。筋膜の成分が一部分に偏って徐々に水分が失われると、接着剤のように隣接する筋肉や皮膚にくっついてしまい(癒着)、元の状態に戻ることができなくなります。
筋膜が引っ張られたような窮屈な状態になることで筋肉の動きが悪くなってしまうため、血行不良に陥って十分な栄養が届かなくなり、癒着部分に痛みなどの症状が生じると考えられています。

≪筋・筋膜性の首こり・肩こりを引き起こすおもな例≫

  • 長時間のデスクワーク
  • 工場のライン作業
  • 姿勢の悪さ(猫背、前かがみ)
  • かばんをいつも同じ側の肩にかける
  • 身体の冷え
  • 運動不足による血流の悪化
  • 精神的なストレス
  • 加齢
(図)首こり・肩こりに関与する筋肉

首こり・肩こり(筋・筋膜性疼痛)の症状

首や肩の周りの筋肉や筋膜、さらにその周囲に、うずくようなコリや痛み、重だるさ、動かしにくさ、と言った症状が現れます。筋・筋膜性疼痛は、患部の筋肉内に硬いしこり(硬結:こうけつ)が生じるのが特徴で、「トリガーポイント」と呼ばれる、触ると痛みに過敏な部分が存在し、圧迫すると離れた部位に痛み(関連痛)が出ることもあります。

初期のうちは肩甲骨付近の1~2か所に局所的な痛みを生じる程度ですが、進行するにつれて首の後ろや上肢(肩から手の先までの部分)、肩甲骨の下の方にも痛みが広がり、頭痛や吐き気、しびれなどを伴うケースもあります。

首こり・肩こり(筋・筋膜性疼痛)の診断

首こり・肩こりの診断には以下のような検査を行います。

問診・触診

患者様から詳しい症状を伺うとともに、触診では、首や肩周辺の筋肉(僧帽筋や肩甲挙筋など)の緊張の有無、圧痛点の確認、肩関節の可動域や、頚椎(けいつい)疾患の有無などを確認します。

X線検査

X線検査では、筋肉や筋膜の状態を確認することはできませんが、首や肩の骨の状態(骨の形、ズレ、椎骨同士の間隔など)を確認します。
※問診や触診、X線検査の結果、何らかの疾患(頚椎疾患、頭蓋内疾患、高血圧、目の疾患、耳または鼻の疾患、肩関節疾患など)によって首こり・肩こり症状が起きている可能性がある場合には、必要に応じてMRIや筋電図、血圧測定などの検査を行います。

超音波検査(エコー)

超音波(エコー)を使い、筋肉や筋膜の状態を確認します。エコー検査では、筋膜が重積している部分が白く見えるのが特徴です。患部を動かしながら評価をすることも可能です。

(画像)超音波(エコー)

首こり・肩こり(筋・筋膜性疼痛)の治療

筋・筋膜性の首こり・肩こりには以下のような治療を行います。

薬物療法

強い痛みがある場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬で患部の炎症と痛みを抑えます。筋肉のこわばりを取り、痛みやしびれを緩和する中枢系筋弛緩薬を使用する場合もあります。

物理療法

首や肩周りの血流を良くするため、温熱療法や各種リハビリ装置を使用した治療を行います。
当院の物理療法スペースでは、牽引療法や赤外線治療、ウォーターベッド治療などを行っており、患者様お一人お一人の症状に合わせたリハビリ治療を受けていただくことが可能です。

運動療法

理学療法士が血流を改善するマッサージを行い、筋肉の緊張を緩和します。また、血流を良くするストレッチやトレーニングの指導も行います。
当院のリハビリテーションは担当制です。担当の理学療法士が1対1で患者様とじっくり向き合うことで、効果的に痛みを和らげ、再発を予防するための治療・指導を行います。

トリガーポイント注射(局所注射)

痛みの出ているトリガーポイントに痛み止めや麻酔薬を注射する治療です。
局所的に神経による痛みの伝達を遮断し、一時的に神経を休めることで痛みを緩和します。
また、筋肉と筋膜の間にスペースを作ることで癒着した筋膜が剥がれ、痛みを抑える効果も期待できます。

ハイドロリリース(筋膜リリース)

超音波装置(エコー)で筋肉や神経の状態を見ながら患部に生理食塩水を注射し、筋肉の癒着や神経周りの結合組織を剥がし、痛みを軽減する治療です。針を刺した箇所をエコーで確認しながら行うことができるため、血管や神経などを誤って傷付けることがありません。また、従来の局所注射で用いられていた薬剤ではなく、生理食塩水を利用するため副作用もほとんどありません。

体外衝撃波治療

体外衝撃波治療は、疼痛性疾患(とうつうせいしっかん:痛みを伴う疾患)の除痛を目的に、ヨーロッパを中心に普及した治療です。一時的な症状緩和ではなく、組織を根本的に治すことができる新しい治療として近年、日本国内でも注目を集めています。
患部に「衝撃波(しょうげきは)」と呼ばれる高出力の圧力波を照射して微細な損傷を作り、本来、体に備わっている治癒能力を高めて痛みを和らげ、組織の修復を行うのが特徴です。痛みが長引き慢性化した筋・筋膜性の首こり・肩こりの改善効果が期待できます。
照射時は軽い痛みがありますが、麻酔の必要はなく、これまでに重い副作用の報告はありません。
現在、筋・筋膜性疼痛の治療では保険適用になっていないため、自費診療で行われていることが多いですが、当院ではより多くの方に効果を実感していただくため、通常行っているリハビリテーションの一環として特別な料金を頂くことなく治療を提供しております。

  • 1回の治療時間:5~10分程度 ※予約の必要はありません。
  • 治療頻度:1~2週間に1回程のペースで通常3回程度
    ※治療の回数・効果には個人差があります。
(画像)体外衝撃波治療器

よくある質問

首こり・肩こりの予防法はありますか?
体外衝撃波治療は痛みがありますか?

まとめ

筋・筋膜性の首こりや肩こりは、多くの人が経験している非常にポピュラーな症状のため、病院に行くほどのことはないと思われている方や、体質や年齢のせいと諦めている方も多いですが、適切な治療を行うことで改善することが可能です。
当院では、筋・筋膜性疼痛の根治が可能な体外衝撃波治療を通常のリハビリに組み込んでいるほか、個別で理学療法士による正しい姿勢や身体の使い方のアドバイスを行うなど、首こり・肩こりを改善するためのさまざまな治療・指導を行っております。
つらい首こり・肩こりにお悩みの方はぜひご相談ください。