疾患
disease

変形性股関節症

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることで、足の付け根に痛みを引き起こす疾患です。
発症すると年単位で緩やかに進行していくのが特徴で、進行とともに歩行や日常生活の動作に支障をきたすようになるため、早期に治療を開始して症状を上手くコントロールすることが大切です。

変形性股関節症とは

骨盤と大腿骨(太ももの骨)で構成される股関節は、人間の身体の中で最も大きい関節であり、上半身の重さを支えるとともに、歩行などの日常生活の動作に欠かせない重要な働きをしています。
大腿骨の上部にある骨頭(こっとう:上端の丸い部分)が、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)にある臼蓋(きゅうがい:受け皿のような形をしているくぼみ)にすっぽりとはまる構造になっているため非常に安定性が良く、足をスムーズに動かすことができるようになっています。
また、骨頭と臼蓋は直接ぶつかって壊れてしまわないよう、それぞれの表面は関節軟骨と呼ばれる2~3㎜の厚さの軟骨で覆われ、その周りは、関節液*1で満たされた関節包(かんせつほう)という袋で守られています。
*1関節のスムーズな動きに欠かせない潤滑油のような液体。軟骨に栄養を与える作用もある。

変形性股関節症は、何らかの原因で股関節の関節軟骨が傷付いたり、すり減ったりする疾患です。
関節軟骨の主成分は水とコラーゲンのため、多少すり減った程度で症状が出ることはありませんが、進行して軟骨の量が減少し、軟骨の下にある骨同士が露出して直接触れるようになってくると、歩行時など足の付け根にズキっとした痛みが起こるようになります。

2つの骨は、ぶつかり合ううちに硬くなり(骨硬化)、骨が接する周辺部分に骨のう胞(こつのうほう)という穴が開くと、今度はそれを修復しようとする作用が過剰に働いて「骨棘(こっきょく)」と呼ばれるギザギザしたトゲのような突起状の骨が作られます。
このような変化が起きた結果、本来、丸いボール状だった骨頭部分は次第にいびつな形になり、関節(骨)の変形が進むにつれて痛みが強く・長く持続するようになります。また、股関節の可動域も制限されるため、足をスムーズに動かすことが難しくなり、歩行はもちろん、さまざまな日常生活の動作に支障をきたすようになります。

(図)変形性股関節症

変形性股関節症のセルフチェック

以下のような症状がある場合には変形性股関節症の可能性があります。
気になる症状が続く場合には一度診察を受けることをおすすめします。

  • 足の付け根に痛みがある
  • 股関節周辺の筋肉を押すと痛い
  • 原因不明の腰痛やひざの痛みがある
  • 子供の頃、股関節に異常があると言われた
  • 足の長さや靴底の減り方が左右で異なる
  • 正座ができない、あぐらがかけない
  • ガニ股もしくはO脚である
  • 以前よりも歩幅が狭くなった、歩くスピードが落ちた
  • 上半身が左右どちらかに傾いている、歩く時左右どちらかに揺れる
  • 親が変形性股関節症である

変形性股関節症の患者数

変形性股関節症は、成人に起こる股関節疾患の中でも最も発症数が多くなっています。
X線診断による国内の有病率は1.0~4.3%で、その患者数は120~510万人に上ると推測されています。女性に多く見られるのが特徴で、その有病率は、男性が0~2.0%であるのに対し、女性は2.0~7.5%と、女性の有病率は男性の2倍以上になっています。また、発症年齢の平均は40~50歳ですが、年齢が上がるにつれて患者数が増えていくため、急激に高齢化の進む日本では、今後も患者数が増加していく傾向にあると考えられています。*2
*2 変形性股関節症診療ガイドライン2016

変形性股関節症の分類と原因

変形性股関節症は、股関節の関節軟骨がすり減ることが原因ですが、はっきりとした原因が不明なもの(一次性)と、特定の疾患やケガなどにより発症するもの(二次性)の2種類があり、発症要因がそれぞれ異なります。

一次性変形性股関節症

股関節に特別な異常はないものの、加齢による関節の老化や肥満、関節に負担をかける職業(肉体労働、長時間の立ち仕事など)やスポーツを長年続けていることで徐々に軟骨がすり減り、発症するタイプです。元々は欧米人に多いタイプでしたが、近年、高齢化が進む日本でも一次性変形性股関節症の発症が増えてきています。

二次性変形性股関節症

生まれつき股関節の骨の形状に問題がある場合や、特定の病気などが原因で発症するタイプで、日本人は二次性変形性股関節症の割合が多いのが特徴です。
その中でも9割を占めているのが、子供の頃の疾患の後遺症である発育成股関節形成不全や臼蓋形成不全症によるもので、どちらも女性に多い疾患であることから、変形性股関節症は女性の発症数が多いと考えられています。ただし、これらの疾患があっても必ず発症する訳ではなく、自覚症状がないまま成長し、中高年になって股関節に痛みが出て発見されるケースも多数あります。

  • 発育性股関節形成不全(はついくせいこかんせつけいせいふぜん)
    赤ちゃんの時のおむつの付け方などが原因で股関節の関節が外れてしまう疾患です。
    現在では、正しいおむつの付け方の理解が進んだため、発症数は少なくなっています。
  • 臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)
    臼蓋が不完全な状態のまま成長したことにより、骨頭が正しい位置に収まることができず、浅くなってしまう疾患です。
(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会 変形性股関節症

変形性股関節症の症状

変形性股関節症は、股関節の痛みのほか、歩きにくいなどの機能障害が起こるのが特徴です。
自覚症状のほとんどない前期(股関節症の前段階で、臼蓋形成不全の起きている状態)から、初期、進行期、そして骨の変形に至る末期まで、進行度によって現れる症状の程度は変化します。

股関節の痛み

発症初期は、足の付け根やお尻、膝などにこわばりや重だるさを感じる程度です。
進行期になって軟骨が徐々に減ってくると、股関節や大腿骨上部の外側にある大転子(だいてんし)周辺に痛みが現れます。起き上がる、歩き始めるなど、動き出す時にズキッと痛みが出る「始動時痛」が特徴ですが、徐々に痛みが強くなり、痛む時間が持続するようになります。
末期になると安静時にも激しい痛みが続き、睡眠に影響を及ぼすようになります。

股関節の動きの悪化

進行期になり、痛みが強くなってくると、周辺の筋肉が緊張して硬くなります。このような状態は、関節拘縮(かんせつこうしゅく)と言われ、徐々に可動域が狭くなるため、正座や階段の昇降、靴下の脱ぎ履き、和式トイレなどの動作が難しくなります。末期になり拘縮が強まると、片側の骨盤が傾き、左右の足の長さが違う「脚長差(きゃくちょうさ)」という症状も見られるようになります。

跛行(はこう)

跛行とは、肩を前に出し、痛い足をかばおうとして引きずりながら歩く状態のことであり、進行した変形性股関節症に見られる症状です。強い痛みで動けなくなることや安静による筋力の低下、脚長差などで身体全体のバランスが崩れることが原因と考えられています。

変形性股関節症の検査・診断

変形性股関節症の診断には以下のような検査を行います。

問診・診察

症状の起きた時期やどのような時に痛みが出るか、過去の股関節疾患の病歴の有無などを伺います。実際に姿勢(体の傾き)や歩き方のチェック、股関節の可動域の確認なども併せて行います。

X線検査

X線を使用して骨の撮影を行い、股関節の骨頭や臼蓋の形やズレ、変形の有無などを調べます。関節軟骨はX線の画像には写りませんが、骨頭と臼蓋の間の間隔から軟骨がどれくらい残っているかを推測することが可能です。当院では「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)」という機器を導入しており、従来よりも被爆量が少ない上、撮影時間も短縮できるため、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減できるのが大きなメリットです。

※股関節の痛みの他、腫れや熱感などがある場合には、関節リウマチを始めとする他の疾患の可能性もあります。必要に応じて血液検査やCT検査、MRI検査、関節液検査(股関節に溜まった液を採取して成分を調べる検査)などを行うこともあります。

変形性股関節症の治療

変形性股関節症の治療は、大きく分けて「保存療法」と「外科手術」の2種類があり、進行度によって治療法の選択を行います。

保存的治療

つらい症状を抑え、進行を抑えるための治療です。以下のような保存的治療を行っても十分な効果が得られない場合には手術を検討します。

  • 生活指導
    股関節に負担をかける生活を続けていると症状の改善に繋がらないため、まずは基本的な生活習慣の見直しを行います。特に、太り過ぎは、股関節に大きな負担がかかり、悪化しやすくなるため、食事量や運動、生活スタイルを見直して適正な体重を保つためのコントロールが必要です。
  • 薬物療法
    非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)*3の内服、外用薬(湿布)、座薬などを使用して患部のつらい痛みを改善します。急性期の強い痛みを抑え、患者さんのQOL(Quality of Life)を向上させる効果が期待できますが、あくまでも対症療法であるため、関節の変形自体を治すことはできません。
    *3 NSAIDs:痛みや炎症を引き起こす「プロスタグランジン」という物質の生成を抑制することで痛みを抑える作用がある薬剤でロキソニンやボルタレンなどの種類がある。
  • 運動療法
    強い痛みで運動量が減ってしまうと、関節の拘縮が起こって可動域が狭くなります。股関節の動きが悪くなると、軟骨に栄養を与える関節液が十分行き渡らなくなって軟骨の状態もさらに悪化するため、痛みが落ち着いてきた時期を見計らい、関節を動きやすくするストレッチや、股関節周辺にある腿やお尻、腹筋などの筋肉を強化するトレーニングなどを開始します。
    当院のリハビリテーションは担当制となっており、治療の経過を見守り、患者さんお一人お一人の年齢やお身体の状態、進行度を考慮して治療を進めていきますのでご安心ください。

手術療法

ご自身の関節を温存する手術と、関節の一部または全体を人工の関節に置き換える手術があります。関節の状態や患者さんの年齢や職業、生活環境、希望などを考慮して手術法を選択します。

  • 関節温存手術(かんせつおんぞんしゅじゅつ)
    患者さん自身の関節を活かす手術であり、「自骨手術(じこつしゅじゅつ)」とも言います。
    自骨手術には、関節鏡(かんせつきょう)と呼ばれる内視鏡を使い、骨棘の切除や関節内の炎症部分の切除などを行う「関節鏡手術」と、部分的に患者さんの骨を切り取って必要な場所に移し、臼蓋と骨頭が正しい位置に収まるように整える「骨切り術(こつきりじゅつ)」があります。
    骨切り術は、自分の関節を残せるのがメリットですが、骨の癒合(ゆごう:くっつくこと)には時間がかかる上、リハビリ期間も長くなるため、おもに50~60代以下の若い患者さんに行われます。
  • 人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)
    患者さんの関節の一部、または全部を、コバルトクロム合金、チタン合金、ポリエチレン、セラミックなどでできた人工の関節と置き換えて、関節の動きを取り戻す手術です。骨切り術に比べ、術後の回復が早いのがメリットですが、装置の耐久年数は20年程度と考えられており、若い方の場合には装置の交換が必要になるケースもあるため、60代以降の方の手術が一般的です。
    ※上記の手術が必要な場合には、石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。

よくある質問

変形性股関節症の進行を抑えるにはどのようなことに気を付けたらよいですか?

まとめ

進行性の疾患である変形性股関節症は、一旦発症してしまうと自然に良くなることはありません。骨の変形が進んで痛みが強まると、生活への影響も大きくなりますし、高齢の方は寝たきりに繋がるケースもあるため、痛みや違和感に気付いた時は放置せずに早期の受診を心がけましょう。