疾患
disease

頚椎症性神経根症

頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)は、頚椎(首の骨)の変性・変形により、首から手の先に向けて伸びる神経が圧迫され、腕や手に痛みやしびれなどを生じる疾患です。加齢や悪い姿勢による筋肉疲労がおもな原因であり、首に負担のかかる姿勢や動作などを続けていると急速に悪化することもあるため注意が必要です。

頚椎症性神経根症とは

一般的に「背骨」と呼ばれる脊椎は、椎骨(ついこつ)と呼ばれるブロック状の骨が積み重なる構造になっています。その中で、頭と胴体を繋ぐ首の部分である頚部は、7個の椎骨が連なる頚椎(けいつい)と、椎骨の間でクッションの役割をする椎間板(ついかんばん)、そして椎骨同士を繋ぐ椎間関節で構成されています。

頚椎の内側にあるトンネル状の空洞である脊柱管(せきちゅうかん)には、脳からの情報を伝える頚髄(けいずい)*1が通り、さらに頚髄から枝分かれした頚神経(けいしんけい)が、頚椎の骨と骨の隙間の椎間孔(ついかんこう)から上肢(じょうし:肩から手の先)に向かって伸びています。

*1 頚髄:頭から腰まで続く脊髄(中枢神経)の1つで、首の部分に存在する。

(図)頚椎の構造

頚椎症とは、加齢や筋肉の疲労などにより、頚椎にある椎間板などの組織が変性または変形し、頚部の痛みやしびれなどを引き起こす疾患の総称です。頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症の2種類があり、頚椎症性脊椎症は、頚髄の圧迫が原因で起こるのに対し、頚椎症性神経根症は、頚髄から分岐する神経の根元である神経根(しんけいこん)の圧迫が原因で起こります。

頚椎症性神経根症を発症すると、首や肩、腕、手の指に痛みやしびれ、力が入りにくいといった症状が現れますが、頚髄から分岐する神経は全部で16本あり、どの部分の神経根が圧迫されるかによって発症部位や症状は若干異なるほか*2、圧迫の状態によっては頚椎症性神経根症と脊髄症を同時に合併するようなケースもあります。

*2 頚髄から分岐する神経は左右一対になっており、それぞれ8本(合計16本)ある。頚椎症性神経根症は、第5-6頚椎の間から分岐する第6頚神経、第6-7頚椎の間から分岐する第7頚神経の神経根での発症が多い。

頚椎症性神経根症セルフチェック

以下のような症状のある方は頚椎症性神経根症の可能性があります。

  • 首から肩や腕にかけて強い痛みがある
  • 手の指がしびれる
  • 顔を上に向けた時に痛みやしびれがひどくなる
  • 痛みやしびれがつらく、仰向けで寝られない
  • 肩甲骨の内側や腋の下が痛む
  • 手に力が入りにくい

頚椎症性神経根症の原因

骨と骨の間でクッションの働きをする椎間板は、20歳頃から徐々に老化が始まると言われており、年齢を重ね、水分量が低下し、弾力性が失われてくると、ヒビが入ったり、潰れたりするようになります。このような椎間板の変性は自然な老化現象の1つであり、特に病気ではありませんが、頚部の変性が元で首の痛みやコリなどの症状が生じるような場合には、頚椎症と診断されます。

変性が進むと、関節の骨は安定性を保つためにトゲ状の突起のある新しい骨(骨棘:こっきょく)を作るようになり、この骨棘や傷んだ椎間板、分厚くなった靭帯により椎間孔が狭窄(きょうさく:狭くなる)を起こすと、神経根を圧迫して頚椎症性経根症を発症します。

頚椎症性神経根症になりやすい人は?

頚椎症性神経根症は、加齢による頚椎の変性によって起こるものが多いため、40~50代の中高年の方の発症が多くなっています。しかし、近年ではパソコンやスマートフォンの長時間に及ぶ使用などが原因で首を傷める人が多く、20~30代の若い世代での発症も増える傾向にあります。

無理な姿勢を毎日、もしくは長期間続けることで起こる「ストレートネック」は、頚椎の自然なカーブが失われ、真っすぐな状態に固定されてしまうのが特徴で、別名「スマホ首」とも言われています。首の痛みやコリなどを引き起こし、悪化すると神経を圧迫することもあるため、頚椎症性神経根症や頚椎症性脊髄症の予備軍と考えられています。

≪頚椎症性神経根症の発症リスクを高める要因≫
  • 姿勢が悪い(猫背、巻き肩など)
  • 重い物を持つ
  • デスクワークや庭仕事など、長時間同じ体勢をとり続ける
  • スマートフォンやタブレットの長時間に及ぶ使用
  • 長年、肩こりに悩まされている
  • うつぶせ寝をする
  • たびたび寝違えて首が痛くなる
  • ストレスが多い
  • 運動不足
(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会 頚椎症性神経根症

頚椎症性神経根症の症状

頚椎症性神経根症を発症すると以下のような症状が生じます。

通常、左右どちらか片側に生じるのが特徴ですが、稀に両側の神経根が同時に圧迫されることもあり、その場合には両側に症状が現れます。

上肢の痛み・しびれ

初期は首の痛みから始まることが多く、次第に圧迫された神経が支配する部位に鋭い痛みや灼熱感などを生じるようになります。手や指先にチクチク針が刺さったような感覚やしびれが出るほか、首や肩、肩甲骨の内側、腋の下に痛みを訴える方もいらっしゃいます。

これらの症状は首を回したり、傾けたりする時に起こることが多く、首を後ろに反らすと症状が強まるのが特徴です。うつぶせ寝など首に負担のかかる体勢を長時間続けると症状が悪化するため、注意が必要です。

筋力の低下

神経根の圧迫が大きく、脳からの運動の情報が上手く伝わらなくなると、肩や腕、手の力が入りにくくなります。握力が低下し、腕が上がらなくなったり、指を反らすことができなくなったりすることがあります。

皮膚感覚の喪失または低下

脳からの感覚の情報が上手く伝わらなくなってしまうと、物に触った感覚がなくなるなど指先の感覚が失われ、腕の皮膚の感覚が鈍くなることがあります。

頚椎症性神経根症の診断

頚椎症性神経根の診断には以下のような検査を行います。

問診・徒手筋力検査(としゅけんさ)

患者さんから詳しい症状をお伺いするとともに、痛みのある部位や程度を確認するための徒手検査を行います。首を上下左右に動かした時に腕の痛みやしびれが出現するかどうかが診断のポイントであり、顔を上に向けた状態で症状のある方向へ頭を傾けて症状が悪化する場合には、頚椎症性神経根症の可能性が高くなります(スパーリングテスト)。

その他にも、手で抵抗を加えた状態で腕や手の筋力を調べる検査や、皮膚の知覚や腱の反射状態などを調べる検査なども行い、他の神経系疾患との鑑別を行います。

X線検査

X線を使って頚椎の状態を撮影します。撮影の方向を変えたり、頚椎を前後に曲げたりすることで、頚椎の形や椎骨の間の間隔、骨棘の有無、関節の安定度などを確認します。

MRI検査

強い磁石と電波を使用して身体の断面図を撮影します。

X線検査では分からない神経や筋肉など柔らかい組織の状態を確認することが可能で、椎間板の変性や神経根の圧迫の状態などを確認します。

当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けることができます。また、当院ではできるだけ受診当日、もしくは翌日中に検査を行うことを心がけておりますので、検査まで何日もお待たせすることがなく、正確な検査結果を基に的確な治療を行うことが可能です。

(画像)MRI検査装置

頚椎症性神経根症の治療

頚椎症性神経根症の治療は、保存的な治療と手術療法の2種類があります。

頚部の安静を保つことで自然に回復する場合も多いため、通常は、痛み止めの服用などの保存的治療で様子を見ることが多く、いきなり手術になるようなことはありません。

ただし、症状が強く、保存的な治療を行っても症状が治まらない場合や、たびたび再発を繰り返し、日常生活に支障をきたすような場合には手術を検討します。

保存的治療の種類

保存的な治療には以下のような種類があります。複数の治療を組み合わせることで、痛みやしびれなどのつらい症状を効果的に改善することが可能です。

  • 薬物療法
    痛みが強い場合には、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服を行います。しびれを伴う場合や発作的に鋭い痛み(電撃痛:でんげきつう)が生じる場合には、神経障害性疼痛治療薬を用います。また、首や肩の筋肉の緊張を和らげる筋緊張弛緩剤を使用することもあります。
  • 装具療法
    首に頚椎カラーと呼ばれる装具を装着します。頚部を保護して安静を保ち、痛みを軽減する効果が期待できます。
  • 運動療法
    マッサージやストレッチで筋肉の緊張を和らげ、痛みを改善します。また、姿勢が悪いと再発の可能性があるため、良い姿勢を保つためのトレーニングや生活指導なども行います。
    当院のリハビリテーションは担当制です。担当の理学療法士が1対1で患者様とじっくり向き合うことで、効果的に痛みを和らげ、再発を予防するための治療・指導を行います。
    ※悪化の可能性があるため、痛みが強い間のトレーニングは控えます。
  • 物理療法
    温熱療法(ホットパック)で患部の血流を改善するほか、頚椎にかかる圧力を軽減するための牽引療法などを行います。当院1階にある物理療法スペースでは、患者様お一人お一人の症状に合わせたリハビリ治療を受けていただくことが可能です。
  • 神経ブロック注射
    神経やその周辺の部位に局所麻酔薬を注射する治療です。注入した薬剤が神経に作用し、痛みの伝わる経路をブロックすることで、つらい痛みを取り除きます。
    痛みが改善することで血流も良くなり、緊張して硬くなった筋肉を和らげる効果も期待できます。

手術療法について

頚椎症性神経根症のおもな手術には以下のような種類があります。

基本的に手術の翌日~数日で立つ・歩くといった動作が可能になり、痛みは比較的早く改善しますが、しびれがしばらく残る場合があります。

  • 頚椎椎弓形成術(けいついついきゅうけいせいじゅつ)
    首の後ろ側から切開し、神経根の出口である椎間孔を広げ、神経根の圧迫を取り除きます。
  • 前方除圧固定術(ぜんぽうじょあつこていじゅつ)
    首の前側から切開し、椎骨を削って神経を圧迫している骨や椎間板を取り除き、自家骨や人工骨、スペーサーを挟んで、スクリューとプレートで固定します。
    ※手術治療は1週間程度の入院が必要です。手術が必要になる場合、石巻赤十字病院などの提携先病院をご紹介します。

よくある質問

日常生活ではどのようなことに気を付けたら良いでしょうか?

頚椎症性神経根症の発症や進行を防ぐためには、日頃から正しい姿勢を心掛け、首にかかる負担をできるだけ減らすことが重要です。
特に、首の屈曲(くっきょく:下を向くこと)や伸展(しんてん:上を向くこと)は頚椎に負担をかけ、神経の圧迫の原因になるため、長時間行わないように気を付けましょう。
デスクワークをする時は、パソコンやキーボード、モニターの位置や高さを調整して良い姿勢を保つとともに、こまめに休憩をとりましょう。また、寝る時にはうつ伏せではなく、仰向けを心がけ、ご自身に合った高さの枕を使うことも大切です。
このように頚椎症性神経根症は、日常生活で繰り返している動作や悪い姿勢の積み重ねが発症の原因になることが多いため、日頃から地道な対策を続けていくことが一番の予防になります。

まとめ

頚椎の変性は加齢変化の1つであり、予防が難しい病気ではありますが、頚椎に負担をかけない生活を心がけるとともに、早期に適切な治療を行うことで治癒が可能です。

痛みやしびれが治まるまでには数週間~数か月かかる場合もありますが、症状が強い時には痛みを和らげる薬物療法などを行い、焦らずにじっくりと治していくことが大切です。

症状が進行してから受診しても、治りにくくなったり、再発を繰り返したりするケースもあります。首や肩、腕などの痛みやしびれ、違和感に気付いた時は放置せず、早めに受診して検査を受けることをおすすめします。