頚椎の変性は加齢が原因で起こるため、残念ながら確実に発症を予防する方法はありません。発症のリスクを減らすためには、日頃からできるだけ良い姿勢を心がけ、頚椎への負担を減らすことが重要です。筋肉が痩せてくると骨が衰えてしまうため、日光浴をしながらウォーキングなどをするのもおすすめです。(転倒には十分気を付けましょう。)
頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)は、頚椎(首の骨)が変性・変形して脊髄を圧迫し、手足の痛みやしびれ、運動障害などの神経症状を生じる疾患です。加齢による変性が大きくなる50代以降に多く発症し、進行すると歩行や排泄など、人間の基本的な生活習慣に支障をきたすこともあるため、早期発見・早期治療が肝心です。
「頚椎(けいつい)」と呼ばれる首の骨は、ブロック状の7つの椎骨(ついこつ)が積み重なる構造になっています。椎骨と椎骨の間にはクッションの働きをする椎間板(ついかんばん)があり、椎骨同士を繋ぐ椎間関節や靭帯(じんたい)によってしっかりと固定されています。頚椎は、横から見ると前方へ緩やかに弯曲しているのが特徴で、この自然なカーブが、ボーリングの玉ほどある頭の重さ(約5~6㎏)を支え、前後左右、しなやかな首の動きを可能にしています。
頚椎には神経を守る働きもあり、頚椎内にある「脊柱管(せきちゅうかん)」と呼ばれる空間には、脳から続く脊髄(せきずい)が通っています。頚部の脊髄は「頚髄(けいずい)」と呼ばれ、運動や感覚を司る神経系統の中枢として、脳からの指令を手足に伝えると同時に手足からの情報を脳に伝えています。また、内臓や血管の活動、呼吸をコントロールする自律神経の伝達も頚髄を通して行われています。
頚椎症性脊髄症は、加齢により変性した頚椎の組織が、脊柱管内の頚髄を圧迫することで発症します。運動や感覚を司る頚椎がダメージを受けることで、手足の痛みやしびれ、感覚異常、歩行障害、排尿障害といった神経症状を引き起こすのが特徴です。
頚椎症性脊髄症は、通常、緩やかに進行することが多く、大きな変化がないまま何年も経過する場合もあります。しかし、数か月~数年で手足の神経症状が悪化するケースもあり、病気の進行を正確に予測することは難しいのが現状です。
さまざまな症状が起きてからでは元の状態に戻すことが難しく、転倒などが起きると、軽い外傷でも急激に麻痺が一気に進んでしまうケースもあることから、頚椎症性脊髄症と診断された時は、速やかに治療を開始し、症状の進行を抑えることが重要になります。
以下のような症状が見られる場合には頚椎症性脊髄症の可能性があります。
できるだけ早く受診して検査を受けることをおすすめします。
椎間板は、弾力性のある軟骨組織ですが、20歳を過ぎると徐々に老化が始まり、水分が減って弾力性が無くなってくると潰れた状態になります。このような椎間板の変性は、誰にでも起こる自然な老化現象の1つですが、変性によって首や腕の痛みやコリなどを引き起こす場合には頚椎症と診断します。
変性が進むと、頚椎の安定性を保つため、椎骨のヘリには骨棘(こっきょく)と呼ばれるトゲ状の突起のある新しい骨が作られます。また、椎間板の厚みが失われて首が縮むと、頚髄の後ろ側にある黄色靭帯(おうしょくじんたい)も縮んで肥厚(ひこう:厚くなること)し、膨らみます。このように加齢によって変性した椎間板や骨棘、靭帯により脊柱管が押されて狭窄(きょうさく:狭くなること)し、内部の頚髄が圧迫されることで、頚椎症性脊髄症を発症します。
頚椎の変性が大きくなる中高年以降に発症数が増加します。
日本人をはじめとする東アジア人は欧米人に比べて脊柱管が狭いため、頚椎症性脊髄症を発症しやすいと言われています。
特に、姿勢の悪い方や、重い物を頻繁に持つなど頚椎に負担のかかる動作を日常的に行っている方は変性が進みやすく、発症のリスクも高くなるため注意が必要です。
また、生まれつき脊柱管が狭い発育性脊柱管狭窄症(はついくせいせきちゅうかんきょうさくしょう)*1の方も発症のリスクが高く、変性による影響が起こり始める30~40歳代で発症するケースもあります。
*1 通常、健康な日本人男性の脊柱管大きさは17㎜程度、女性16㎜程度と言われているが、発育成脊柱管狭窄症の方は元々脊柱管が狭く、12~13㎜以下の場合もある。
頚椎症性脊髄症を発症すると、以下のような神経症状が起こります。
最初は上肢(じょうし:首の付け根~手指)の痛みやしびれなどから始まり、進行するにつれ腹部や下肢(かし:太腿~足指)にも症状が広がり、運動障害などの麻痺を伴うようになります。
首の後ろ側に痛みが生じます。
首を反らしたり、重い荷物を持ったりした時に痛みが生じることもあります。
左右の手や足にピリピリ、チクチクするような感覚異常が起こります。
また、何にも触っていないのに痛みが起こるなど、正常な知覚ができない状態になります。
巧遅運動障害(こうちうんどうしょうがい)とは、手先の細かい作業が不自由になってしまう状態のことです。お箸が上手く使えなくなる、字が書けなくなる、洋服のボタンかけが難しくなる、などの症状があります。
歩行時に足がもつれてつまずきやすくなるほか、足がスムーズに前に出ない、早歩きができない、階段を下りるのが怖くなる、などの症状があります。ロボットのようなぎこちない歩き方(痙性歩行:けいせいほこう)が特徴で、歩行障害が進行すると平らな場所でも杖がないと歩けなくなります。
進行すると、膀胱や腸の働きがコントロールできなくなり、頻尿(1日10回以上トイレに行く、夜間3回以上)、残尿感、尿が出にくい、尿に勢いがない、失禁、便秘などの症状が起こります。
頚椎症性脊髄症の診断には以下のような検査を行います。
問診では、発症時期や自覚症状はもちろん、既往歴(過去の病気やケガ)や職業、生活の状況、スポーツ歴、排尿・便通の変化などを詳しく伺い、患者さんの姿勢や歩き方などを確認します。
また、痛みや神経症状の状態を調べる以下の検査(テスト)も非常に重要です。
X線を使って頚椎の状態を撮影します。X線で脊髄を写すことは出来ませんが、さまざまな角度から撮影することで脊柱管の広さを確認することが可能です。椎間板の間隔や骨棘の有無、靭帯の状態(靭帯が骨のように硬くなっていないか)などを確認し、他の疾患との鑑別を行います。
強い磁石と電波を使用して身体の断面図を撮影する検査で、脊髄や椎間板、靭帯の状態を確認して確定診断を行います。
当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けることができます。また、当院ではできるだけ受診当日、もしくは翌日中に検査を行うことを心がけておりますので、検査まで何日もお待たせすることがなく、正確な検査結果を基に的確な診断を行うことが可能です。
※MRIによる診断が難しい場合には、必要に応じて脊髄造影検査(ミエログラフィー)やCT検査を行うこともあります。
頚椎症性脊髄症の治療には、保存的治療と手術療法の2種類があります。
痛みやしびれなどの症状を抑える治療です。軽度な場合は以下のような保存的な治療で様子を見ますが、あくまでも症状を抑えるための対症療法であり、症状が悪化していく場合は時期を見て手術を検討することになります。
保存的治療ではしびれや痛みが改善しない場合や、巧遅運動障害や歩行障害、膀胱直腸障害が起こっている場合には手術を検討します。また、自覚症状が強くなくても、画像検査で強い圧迫が認められる場合には手術を検討します。
※手術治療には1~2週間程度の入院が必要です。手術が必要になる場合、石巻赤十字病院などの提携先病院をご紹介します。
頚椎の変性は加齢が原因で起こるため、残念ながら確実に発症を予防する方法はありません。発症のリスクを減らすためには、日頃からできるだけ良い姿勢を心がけ、頚椎への負担を減らすことが重要です。筋肉が痩せてくると骨が衰えてしまうため、日光浴をしながらウォーキングなどをするのもおすすめです。(転倒には十分気を付けましょう。)
首を後ろに反らすと脊柱管が狭くなるため、できるだけ首を後ろに反らす動作をしないように気を付けましょう。また、頚椎に衝撃が加わると麻痺が重症化する可能性があるため、頚椎症性脊髄症と診断された場合は、頚椎に外からの力が加わるスポーツ活動などは控えましょう。
頚髄(脊髄)は非常にデリケートで損傷しやすい神経であり、一度ダメージを受けてしまうと基本的に自然に治ることはないため、できるだけ早期に治療を始めることが大切です。
狭窄した脊柱管は、薬物療法や運動療法では効果がなく、外科手術で広げるしかありません。
状態によっては早急な手術が必要になることもあり、治療時期の見極めが非常に重要になります。
当院では当日、もしくは翌日の迅速な検査を心がけ、検査結果を基に正確な診断をすることが可能です。また、手術が必要な場合には速やかに提携病院への紹介も行うなど、患者様のご不安をできる限り減らし、スムーズに治療を受けていただけるよう取り組んでおります。
手足の痛みやしびれ、運動障害などの違和感が続く時は、早期にご相談ください。