疾患
disease

五十肩(凍結肩)

中年以降、特に50代に多く発症する五十肩(凍結肩)は、肩関節に起きた炎症により、肩の痛みや動かしにくさなどを生じる疾患です。半年~1年程度で自然に軽快するケースもありますが、関節の可動域が制限されたまま、何年間も痛みが続くケースもあるため、放置せずに早期に治療を行うことが大切です。

五十肩(凍結肩)とは

肩の関節は、上腕骨(じょうわんこつ)と肩甲骨(けんこうこつ)、そして鎖骨(さこつ)という3つの骨で構成され、上腕骨の先端にある丸いボール状の「骨頭(こっとう)」が肩甲骨の「関節窩(かんせつか)」と呼ばれる浅いくぼみに収まる構造になっています。

肩関節は、他の関節に比べると骨同士の接触面は少ないのですが、筋肉や靭帯、腱など周辺の組織が関節を支え、しっかり固定することで安定性を高めています。

また、骨頭と関節窩の接触面を覆う「関節唇(かんせつしん)」という軟骨組織が骨同士の衝撃を吸収し、関節を包む袋状の組織である「関節包(かんせつほう)」などが関節の動きを良くすることで、スムーズな肩の動きを可能にしています。

(図)肩関節の構造

五十肩とは、「明らかな原因がなく、50歳前後以降に発症する肩関節の痛み」のことであり、関節が硬くなり、動きが制限される拘縮(こうしゅく)を伴うのが特徴です。50代前後に多く発症するため、日本では古くから「五十肩」という名称で呼ばれていますが、医学的には「凍結肩(とうけつかた)」もしくは「肩関節周囲炎」という診断名が広く用いられています。

五十肩は、肩の重だるさや違和感から始まることが多く、徐々に痛みが強くなり、可動域が狭くなると着替えや洗髪など日常の動作に支障をきたし、患者さんのQOL(生活の質)は大きく低下します。発症後、数か月で痛みが落ち着き、動きの悪さが徐々に改善されることが多い一方、症状が2~3年続いてしまうケースもあります。海外の研究によると、発症者の40%程度の方は3年以上痛みが残り、さらにその15%の方はより長期間にわたる運動障害が残ると報告されています。

悪化して症状を長引かせないためにも、肩関節の痛みや違和感がある時は放置せず、積極的に治療を行っていくことが必要だと考えらえています。

五十肩(凍結肩)セルフチェック

五十肩(凍結肩)は、左右どちらかの肩に症状が現れるのが特徴です。

当てはまる項目がある場合には一度診察を受けることをおすすめします。

  • ある日突然、肩の痛みが起こり、肩が動かなくなった
  • 肩を動かすとズキズキ痛む
  • 肩の周辺を押すと痛みがある
  • 寝返りを打つと痛みで目が覚める
  • 腕が上がらない
  • 腕を背中に回すことができない
  • 腕を頭の後ろに回すことができない

五十肩(凍結肩)の原因

五十肩は、肩関節を構成する骨や筋肉、軟骨、靭帯、腱などの周囲組織に炎症が起こることで発症すると考えられています。肩関節を包む「関節包」や肩関節の動きを良くする「肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)」という膜が癒着して分厚くなることで拘縮し、さらに動きが悪くなります。炎症が起きる原因ははっきり分かっていませんが、加齢により組織自体が脆くなることがおもな要因とされています。また、肩関節は可動域が広く、骨以外の組織が引っ張られやすいことや、仕事やスポーツによる肩の使い過ぎ、姿勢の悪さや何らかの疾患など、複数の要因が重なって発症すると考えられています。

(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会 五十肩(肩関節周囲炎)

五十肩(凍結肩)になりやすい人は?

五十肩の発症頻度は、日本の人口の2%程度と言われ、後発年齢は50代を中心に40~60代となっています。また、男性に比べ、女性の発症が多いのも大きな特徴です。

過去に肩を傷めたことがある方や、姿勢の悪い方、肩を酷使する仕事(重い物を持つなど)や肩を使うスポーツをしている方などは、発症のリスクが高くなるため注意が必要です。

また、糖尿病の方も五十肩を発症するリスクが高く、治りにくいことが分かっています。糖尿病になると血糖が高い状態が続き、関節包などを構成するコラーゲンが硬くなりやすいため、日頃から薬物療法や食事、運動などで血糖を適切にコントロールしておくことが大切です。

その他、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、パーキンソン病、心臓病なども五十肩の発病に関連があると考えられています。

五十肩(凍結肩)の病期別症状

五十肩は時間の経過とともに症状が変化していくのが特徴です。

炎症期

発症直後の痛みが強い時期です。動作時だけでなく、安静にしている時や就寝中にも痛みが続き、熱感を伴うこともあります。痛みが強くなるにつれ、肩の可動域も狭くなります。

炎症期は肩を安静に保つ必要があるため、痛みが出る動作はできるだけ控えることが大切です。

拘縮期

炎症期の強い痛みは和らぎますが、関節が拘縮し、肩を動かしにくい状態が続きます。

無理に動かすと最終可動域(動かし切ったところ)で痛みが出るほか、発症した側の肩を下にして寝る時などにも痛みを生じます。そのまま放置していると関節が固まったまま動かなくなってしまうため、痛みが落ち着いてきたら、徐々に肩周りを動かす運動を取り入れ、硬くなった関節をほぐすケアを行う必要があります。

回復期

痛みがほぼ消失し、肩の動きも次第に良くなりますが、筋肉の突っ張り感などが残る場合もあります。患者さんによっては、治療を行ってもなかなか改善しないケースもあります。関節が固まり、可動域が狭くなった状態を無理に動かそうとすると、しつこい痛みが続くこともあります。

回復期には低下した肩の筋力を取り戻し、可動域を広げるためのリハビリテーションを積極的に行っていくことが大切です。

五十肩(凍結肩)の診断

肩関節に起こる疾患は五十肩以外にも多数あります。他の疾患と鑑別をするために、以下のような画像検査を行います。

問診・触診

自覚症状や発症時期などについて詳しく伺うとともに、触診で痛みの出る場所や動きなどを確認します。

X線検査

X線を用いて骨の状態(骨の密度や変形の有無など)を確認します。

通常、五十肩の場合では骨に大きな異常が見られることはありません。

超音波検査

X線では写らない筋肉や靭帯、腱などの柔らかい組織の損傷や炎症の有無を確認することが可能です。

関節造影検査

関節内に造影剤や空気を入れ、X線を使用して撮影を行います。

通常のX線検査では見ることのできない関節内の異常を見つけることが可能です。

MRI検査

X線では写らない筋肉や靭帯、腱などの柔らかい組織の損傷の有無を確認します。

当院のMRI装置は全身が入る筒型ではなく、お身体の周りが開放されているオープンタイプですので、狭い空間が苦手という方でも安心して検査を受けることができます。また、当院ではできるだけ受診当日、もしくは翌日中に検査を行うことを心がけておりますので、検査まで何日もお待たせすることがなく、正確な検査結果を基に迅速な診断が可能です。

(画像)MRI検査装置

五十肩(凍結肩)の治療

五十肩(凍結肩)の治療には、大きく分けて保存的治療と手術療法の2種類があります。

病期に合わせた保存療法を行うことで、徐々に良くなることが多いですが、個人差も大きく、治癒もしくはそれに近い状態になるには6か月~3年程度かかると言われています。

また、保存的治療を行っても十分な効果が得られない場合には外科手術を検討します。

保存的治療の種類

痛みを和らげ、可動域を広げるための治療です。

患者さんの90%は、以下の治療を組み合わせて行うことで症状の改善が期待できます。

  • 安静
    発症直後の炎症期は安静を保ち、できるだけ痛みの出る動作を控えることが大切です。
    痛みが強い場合には、三角巾やアームスリングを装着することもあります。
  • 薬物療法
    炎症期の強い痛みがある場合には、「NSAIDs」と呼ばれる消炎鎮痛剤(ロキソニン、ボルタレンなど)の内服や外用薬で痛みを和らげます。それでも十分な効果が得られない場合には、抗炎症作用のあるステロイド剤(ケナコルト)や局所麻酔薬、ヒアルロン酸などの関節内注射を検討します。
  • 物理療法
    発症直後の炎症期で患部に強い熱感を伴う場合にはアイシング(冷却)を行います。
    拘縮期や回復期には、ホットパック、電気による温熱療法で血流を改善し、痛みを和らげます。
    当院1階にある物理療法スペースでは、患者様お一人お一人の症状に合わせたリハビリ治療を受けていただくことが可能です。
  • 運動療法
    炎症期の強い痛みが落ち着いたら、理学療法士によるストレッチやマッサージで、固まった肩をほぐし、関節の可動域を広げます。また、低下した筋肉を強化するため、ご自身で行っていただく運動プログラムの指導も行います。運動の強度や回数などは患者さんの経過によって異なります。当院のリハビリテーションは担当制で、担当の理学療法士が患者様に合わせたオーダーメイドのプログラムを作成し、指導を行いますので、信頼関係を築きながら治療を受けていただくことが可能です。
(画像引用)公益社団法人 日本整形外科学会 五十肩(肩関節周囲炎)

手術療法の種類

上記のような保存的治療を行っても肩の関節が硬いまま可動域が広がらない場合や、しつこい痛みがいつまでも続き、生活に大きな支障をきたしている場合には外科手術を検討します。

肩関節に起こる拘縮の多くは分厚くなった関節包の癒着によるものであるため、硬くなった関節包を剥がし、切り離すことが手術の目的となり、麻酔下徒手的授動術と関節鏡下授動術を併用して行うのが一般的です。術後には再発防止のために積極的にリハビリを行うことが大切です。

  • 麻酔下徒手的授動術(ますいかとしゅてきじゅどうじゅつ)
    麻酔で眠った後、医師が肩の関節に力を加えて動かすことで硬くなった関節包が延び、切り離されることによって肩関節の動きを改善します。
  • 関節鏡下授動術(かんせつきょうかじゅどうじゅつ)
    患部の皮膚を4mm程度切開し、関節鏡(関節の中を確認する内視鏡)で関節包を観察しながら電気メスで癒着を剥がし、切開することで可動域を広げます。

※手術が必要になる場合、石巻赤十字病院などの提携先病院をご紹介します。

五十肩(凍結肩)の体外衝撃波治療について

当院では、一般的な保存的治療の他に、「体外衝撃波治療」を行っております。体外衝撃波治療は、疼痛性疾患(痛みを伴う疾患)の除痛を目的に、ヨーロッパを中心に普及した治療です。一時的な痛みの緩和ではなく、患部の組織を根本的に治すことができる新しい治療として近年、日本国内でも注目を集めています。

「衝撃波(しょうげきは)」と呼ばれる高出力の圧力波を照射して微細な損傷を作り、本来、体に備わっている治癒能力を高めて痛みを和らげ、組織の修復を行うのが特徴で、腱や靭帯付近に起こる痛みの治療に高い効果が期待できます。

照射時は軽い痛みを伴いますが、麻酔の必要はなく、これまでに重い副作用の報告もありません。

現在、五十肩の治療では保険適用になっておらず、通常は自費診療で行われていることが多い治療ですが、当院ではより多くの患者様に効果を実感していただくため、通常のリハビリテーションに組み込み、特別な料金を頂くことなく治療を提供しております。

  • 1回の治療時間:5~10分程度 ※予約の必要はありません。
  • 治療頻度:1~2週間に1回程のペースで通常3回程度 

※治療の回数・効果には個人差があります。

(画像)体外衝撃波治療器

よくある質問

五十肩の発症予防にはどのような事に気を付けたらよいですか?

肩関節の拘縮を予防し、筋力を落とさないためにも普段からストレッチやウォーキングなど適度な運動を取り入れるようにしましょう。歩く時は、腕を振ることを意識して行うことをおすすめします。
また、姿勢が悪いと肩に余分な負担がかかるため、日頃から姿勢が悪くならないように気を付けましょう。肩の血液の流れを良くするため、入浴時にはしっかりと温めるなど肩を冷やさないようにすることも大切です。
※痛みがある場合、無理に動かすと悪化する可能性があります。医師や理学療法士の指示に従って適切な運動を行いましょう。

五十肩は再発することがありますか?

基本的に同じ側の肩に再発することはありません。ただし、痛みの出る肩をかばい、反対側の肩を酷使していると、もう一方の肩も発症してしまうケースが多く、発症後4年以内に反対側の肩に五十肩を発症する確率は20%に上ると言われています。

まとめ

五十肩には、治りやすいケースと治りにくいケースがあり、拘縮がなかなか改善されずに何年も痛みが続いてしまうこともあるので、悪化する前に診断を受け、早期に治療を行うことをおすすめします。当院では、通常の保存的治療の他に体外衝撃波治療による治療も行っております。通常、自由診療で行われることが多い治療ですが、当院では通常のリハビリに組み込み、保険診療内での治療が可能ですので、長引く痛みや動きの悪さにお悩みの方はぜひご相談ください。