ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)は、手首に起きる腱鞘炎のひとつで、親指側に痛みや腫れなどを生じる疾患です。日頃から手を酷使する方や女性に多く発症し、悪化すると仕事や家事などに支障をきたすことがあるため、痛みが長引く場合には早期に受診して治療を受けましょう。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)とは
手関節(手首)の親指側には、親指を動かす「①短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん)」「②長母指外転筋腱(ちょうぼしがいてんきんけん)」という2本の腱*1が通っており、これらの腱を覆う「③腱鞘(けんしょう)」内を往復するように移動することで、親指の自由な動きが可能になっています。
*1骨と筋肉を繋ぐひも状の組織。
ドケルバン病は、何らかの原因で、この2本の腱や腱鞘に炎症が起きてしまうもので、親指の付け根や手首(親指側)に痛みや腫れを生じるのが特徴です。
初めてこの疾患を報告したスイス人外科医の名前をとって「ドケルバン病」という名称が付けられていますが、炎症により腱鞘の壁が厚みを増してトンネルが狭くなり(狭窄)、腱が締め付けられて痛みを生じるため、「狭窄性腱鞘炎(きょうさくせいけんしょうえん)」とも呼ばれています。
ドケルバン病は、日常的に手をよく使う方の発症が多く、手を酷使する職業の方はもちろん、近年では長時間のスマートフォンやゲーム機の操作などによる発症が増加しています。また、男性よりも女性の発症が圧倒的に多いのが特徴で、家事や育児などの日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
軽症の場合は、手にかかる負担を減らして安静にすることで軽快することが多いですが、症状が悪化すると手に力が入らなくなってしまうケースもあるため、早期に適切な治療を受けることをおすすめします。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)のセルフチェック
以下のような症状が続く場合はドケルバン病の可能性がありますので、早期に受診することをおすすめします。
- 親指側の手首や親指の付け根に腫れや痛みがある
- 親指の付け根を押すと痛み(圧痛)が出る
- 握る、掴む、絞る、持ち上げるといった動作で鋭い痛みが起きる
- 親指を広げたり曲げたりした時に痛みが悪化する
- 手の指が開きにくい、詰まったような感じがする
- 手を握ろうとしても痛くて力が入らない
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の原因
ドケルバン腱鞘炎は、以下のような原因で起こることがあります。
親指の使い過ぎ
ドケルバン病の最大の原因は手の使い過ぎです。親指や手首に過度な負担がかかることで、腱(短母指伸筋腱・長母指外転筋腱)が腫れたり、腱鞘が肥厚したりして摩擦が起こり、炎症を引き起こします。美容師や料理人、庭師、マッサージ師などの手指を酷使する職業の方に多く発症しますが、日常生活の中でも以下のような動作を長時間、もしくは頻繁に繰り返して行うことで起こることがあります。
≪日常生活の中で起こる発症例≫
- パソコンのキーボードやマウスの操作
- スマートフォンやゲーム機(コントローラー)の使用
- テニスやゴルフなどのグリップを強く握るスポーツ
- ギターやピアノなどの楽器演奏
- 赤ちゃんの抱っこ(首のすわっていない乳児の頭を支えながら抱き上げる、など)
女性ホルモンの変化
ドケルバン病の発症には、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の変化も大きく関連しており、妊娠・出産期や更年期女性の発症が多くなっています。
妊娠・出産期の女性は妊娠を継続するため、プロゲステロンの分泌が増えます。プロゲステロンには腱鞘を収縮させる作用があるため、腱鞘のトンネルが狭くなり、腱との摩擦が大きくなることで炎症が起こりやすくなります。
また、更年期になると閉経に伴い、エストロゲンが急激に減少します。腱や関節を柔軟に保つ作用のあるエストロゲンの働きが低下することで、腱や腱鞘などに炎症が起こりやすくなります。
糖尿病や関節リウマチなど特定の疾患
糖尿病を患っている方や人工透析を受けている方、関節リウマチの方などは、末梢の血液が滞ってむくんでしまうことが多く、炎症が起こりやすくなります。一度、炎症が起きてしまうと治りにくいのも特徴です。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の症状
ドケルバン病のおもな症状は、手首の親指側と親指の付け根の疼くような痛みで、腫れや、赤み、熱感を伴うこともあります。
親指の付け根を押した時に痛み(圧痛)を生じ、親指を動かしたり、力を入れたりすると痛みが強くなるのが特徴です。症状が悪化すると、「ものを掴む」「持ち上げる」「タオルを絞る」といった動作が難しくなり、痛みで手に力が入らなくなることもあります。
指の腱鞘炎である「ばね指(弾発指)」を併発するケースもあります。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の検査・診断
ドケルバン病は、あくまでも腱や腱鞘の炎症であり、骨に異常はありません。
そのため、症状などからドケルバン病の可能性が高いと考えられる場合は、通常、X線検査は行わず、医師の診察(問診、視診、触診)で診断を行います。診察時には、詳しい症状の聞き取りを行う他、痛みの状態を調べる以下の整形外科的テストを行います。
※ただし、症状から骨折や骨の変形など他の疾患が疑われる場合にはX線検査、MRI検査、CT検査などが必要です。
整形外科的テスト
ドケルバン病を調べる簡単なテストです。
※ただし、強い痛みやしびれが出る場合は無理して行わないようにしましょう。
フィンケルシュタインテスト
手の親指を内側に倒し、反対の手で親指を掴み、小指側に引っ張った時に痛みが誘発されるかを確認します。
鋭い痛みが出た場合はドケルバン病の可能性があります。
フィンケルシュタインテスト変法
親指を内側に入れて握りこぶしを作り、手首を小指側に曲げた時に痛みが誘発されるかを確認します。鋭い痛みが出た場合はドケルバン病の可能性があります。
岩原・野末のサイン
手首を直角に曲げ、親指を伸ばした時に痛みが誘発されるかを確認します。
鋭い痛みが出た場合はドケルバン病の可能性があります。
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の治療
ドケルバン病の治療には、保存的治療と手術があります。発症から日が浅い場合には、保存的治療を行うことで改善するケースが多いですが、症状が進行し、保存的治療で十分な効果が望めない場合や、重症で手に力が入らないような場合には手術を検討します。
また、当院では根治を望める新たな治療として体外衝撃波を用いた治療も行っております。興味をお持ちの方はお気軽にご相談ください。
保存的治療
保存的治療はつらい痛みや腫れ、炎症を抑えるための治療であり、以下のような種類があります。
安静の保持
親指に負担のかかる動作を避け、手首や親指をできるだけ使わないようにして安静を保ちます。
サポーターやテーピングのほか、症状が強い場合にはシーネ(副木)で固定することもあります。
薬物療法(抗炎症薬の処方)
炎症による腫れや痛みを抑えるため、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や、湿布、塗り薬などを使用します。
注射療法
腫れや痛みが強く、日常生活に支障をきたす場合は、超音波で患部の位置を確認し、腱鞘内へのステロイド注射を行います。「トリアムシノロン」というステロイド剤は、痛みや炎症を抑える効果が高く、即効性が期待できます。ただし、繰り返し行うと腱が断裂する可能性もあるため、頻繁に行うことはできません。
手術治療
ステロイド注射を行っても効果が得られない時や再発を繰り返すような場合には、手術で根治を目指します。
「腱鞘切開手術」は、肥厚した腱鞘の上側の部分を切開し、一部を切り離すことで腱鞘のトンネルの容積を広げ、指の痛みや動きを改善する手術です。局所麻酔による日帰り手術が可能ですが、術後1週間程度で行う抜糸までは手を濡らさないようにする必要があります。
手術後、3~4日程度から徐々に家事などを再開し、スポーツや力仕事は2週間程度が復帰の目安となります。
※手術が必要になる場合には、石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。
体外衝撃波治療
当院では、手術をせずにドケルバン病の根治を望める新しい治療法として「体外衝撃波」による治療を行っております。
体外衝撃波治療とは、疼痛性疾患(とうつうせいしっかん:痛みを伴う疾患)の除痛を目的に、ヨーロッパを中心に普及した治療です。高出力の圧力波(衝撃波)を照射し、末梢神経に作用して痛みを取り除くとともに、微細な損傷を作ることで細胞の再構築を促し、組織を修復する効果が期待できます。一時的な痛みの緩和ではなく、患部の組織を根本的に治す新しい治療として、日本国内でも注目を集めています。
治療時には軽い痛みを伴いますが、麻酔は必要なく、重い副作用の報告などもありません。
現在、ドケルバン腱鞘炎の治療では保険適用が認められていないため、通常は自費診療で行われることが多いですが、当院ではより多くの患者様に治療を受けていただけるよう、通常のリハビリテーションに組み込み、特別な料金を頂くことなく治療を提供しております。
体外衝撃波治療にご興味をお持ちの方は、お気軽にお尋ねください。
- 1回の治療時間:5~10分程度 ※予約の必要はありません。
- 治療頻度:1~2週間に1回程のペースで通常3回程度
※治療の回数・効果には個人差があります。
ドケルバン病の予防や再発を防ぐ方法はありますか?
ドケルバン病の予防には、日常生活において以下のようなことに気を付けましょう。
・手首や親指に負担をかけない。
職業柄、手指を使う作業を避けられない場合は、こまめに休憩(1時間に10分程度)をとって手を休ませましょう。親指や手首に痛みやだるさなどを生じた時は、入浴やマッサージ(親指と人差し指の間を優しく揉みほぐす)、手首のストレッチなどで血流を良くして、疲労を残さないようにすることが大切です。
また、パソコンやスマートフォン、ゲーム機器の操作などは長時間続けて行わないように気を付けましょう。スマートフォンを片手で操作する方(スマートフォンを持った手の親指で操作するなど)は、必要以上に親指や手首に大きな負担がかかっているため注意が必要です。スマートフォンを操作する時は指と手のひら全体でしっかりと支え、反対側の手で操作するなど、手指や手首に負担の少ない持ち方に改めましょう。
・「エクオール」の摂取
更年期女性の予防対策として、女性ホルモン(エストロゲン)に似た構造を持つ「エクオール」というサプリメント(自費)の摂取が有効と言われています。大豆に含まれるイソフラボンから作られるエクオールには弱いエストロゲンのような作用があり、腱や腱鞘の炎症を防ぐ効果が期待できます。また、日々の食事でも納豆や豆腐、豆乳などの大豆製品を積極的に摂取することもおすすめです。
まとめ
手首は日常生活の中で日々酷使され、負担のかかりやすい部分です。
手を使わずに過ごすことは難しく、初期は軽い痛み程度でも、使い続けているうちに痛みが悪化してしまうケースも多いため注意が必要です。
手首や親指に痛みや違和感があり、症状が長引く時には放置せずに当院にご相談ください。