変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨や関節が変形することで膝に強い痛みを引き起こす疾患です。50代以降、年齢が上がるとともに発症数が増えるのが特徴で、進行すると歩行などの日常生活に大きな支障をきたすため、早期に治療を開始して進行を抑えることが大切です。
変形性膝関節症とは
膝の関節は、大腿骨(だいたいこつ:もも)と脛骨(けいこつ:すね)、膝蓋骨(しつがいこつ:膝のお皿)の3つの骨で構成され、それぞれの骨の表面は、骨同士が直接ぶつかって消耗しないように関節軟骨(硝子軟骨:しょうしなんこつ)*1で覆われています。また、大腿骨と脛骨の間には「半月板(はんげつばん)」と呼ばれるコラーゲンでできた繊維軟骨*2があり、2つの骨の間でクッションの役割をすることで、「曲げる、伸ばす」といった膝関節のスムーズな動きを可能にしています。
*1硝子軟骨:関節の相対する骨の端の表面にある厚さ2~4mmの組織
*2繊維軟骨:脊椎などの動きの少ない関節にあり、骨と骨のクッションの役割をする組織
変形性膝関節症は、何らかの原因で膝の関節軟骨の質が低下し、徐々にすり減って痛みを引き起こす疾患です。発症初期は、動いたり歩いたりした時に一時的な痛みが出る程度ですが、進行して軟骨の下にある骨が露出してくると、膝関節のかみ合わせが悪くなって動きが制限され、安静時にも痛みが続くようになります。強い痛みで歩行や日常の動作に支障をきたすようになると、患者さんの生活の質(QOL)は大きく低下し、要介護になるリスクが高くなるため注意が必要です。
一度、損傷してすり減った関節軟骨を元の状態に戻すことは難しいですが、膝にかかる負担をできるだけ減らし、早期に適切な治療を行うことで症状の進行を抑えることは可能です。
中高年の方で膝の痛みや腫れ、違和感などの症状がある場合には、早期に受診して詳しい検査を受けることをおすすめします。
変形性膝関節症のセルフチェック
以下のような症状がある場合には変形性膝関節症の発症が疑われます。
当てはまる項目が多い場合には、できるだけ早く診察を受けましょう。
- 膝が痛い、または膝が腫れている
- 立ち上がる時や歩き始める時に痛みがある
- 正座がつらい、できない
- 膝の内側を押すと痛みがある
- 長い時間(30分)以上歩くと膝が痛くなる
- 階段の上り下りがつらい(特に降りる時)
- 膝を動かした時にギシギシ・ミシミシと鳴る
変形性膝関節症の患者数
変形性質関節症は、50歳以降に発症することが多く、年齢が上がるにつれて患者数は増加します。日本国内では、約1,000万人の方が膝の痛みや腫れなどの症状を訴え、変形性膝関節症の治療を受けています。しかし、自覚症状がない場合でも、X線検査をすると骨や関節に何らかの変化が認められる方もいるため、潜在的な患者数を含めると3,000万人に上ると推測されています。*3
*3 厚生労働省 介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について報告書
変形性膝関節症の分類とおもな発症要因
変形性膝関節症には、加齢や環境によるものなど明確な発症原因が特定できない「一次性」と、膝関節の外傷や感染など、明確な原因がある「二次性」があり、日本人の場合、一次性が9割以上を占めています。変形性膝関節症を引き起こすおもな要因には以下のようなものがあり、これらの要素が単独、もしくは複合的に関係して変形性膝関節症の発症に至ると考えられています。
加齢
年齢が上がると軟骨の弾力が次第に低下し、関節の滑らかな動きが阻害されて損傷しやすくなります。また、加齢により膝関節の周囲の筋力も低下するため、膝関節にかかる負担がさらに大きくなることも要因の1つと考えられています。
女性(性別)
変形性膝関節症は、男性に比べ、女性の発症が4倍多くなっています。女性は、筋肉や骨の形成に関わる男性ホルモン(テストステロン)が少ないため、男性に比べて筋力の低下が顕著で、軟骨や骨の変形も起こりやすいことが原因と考えられています。また、閉経によるホルモンバランスの変化が膝関節周囲の筋力低下を招き、軟骨や骨への負担が増加することも要因の1つです。
肥満
中高年になると運動不足や食べ過ぎなどで体重が増加しやすくなります。体重が増えると膝への負担も大きくなるため、食事内容の見直しや適度な運動により適正体重を保つことが大切です。
O脚・X脚
O脚やX脚といった膝の変形は、膝に大きな負担がかかります。日本人に多いO脚の場合、両膝の間に隙間ができて膝関節の内側に負担がかかるため、内側の軟骨や骨がすり減って損傷しやすくなります。
膝関節のケガや特定の疾患
転倒やスポーツによるケガ(骨折、捻挫、半月板や靭帯の損傷など)で過去に膝関節を損傷していると関節が不安定になるため、関節軟骨の負担が大きくなり、変形性膝関節症の発症リスクが高くなります。このほか、関節に炎症を起こす関節リウマチや通風などの病気が変形性膝関節症の発症リスクを高めることも分かっています。
変形性膝関節症の症状
変形性膝関節症は以下の3つの段階に分類され、それぞれ現れる症状の程度が異なります。
変形性膝関節症のおもな症状は、膝の痛みですが、症状が進行するにつれ、関節水腫(かんせつすいしゅ:膝に水が溜まること)や骨の変形といった症状も現れます。
ただし、症状や進行には個人差もあるため、必ずしも進行度と症状は一致する訳ではありません。
初期
骨と骨の隙間が少し狭くなった状態です。立ち上がる時や歩き始めの動作時に痛みやこわばりが出ますが、少し休むと症状が消失するため、発症に気付かない場合もあります。
中期
関節軟骨や半月板がすり減り、骨と骨の隙間がさらに狭くなった状態です。関節の動きが制限されて正座がしにくくなり、階段の上り下りの際などに痛みが出るようになります。また、関節の周りを覆う線維の膜(関節包)の内側に炎症が起こって関節液と呼ばれる水が分泌されると、いわゆる「膝に水が溜まる」状態になり、膝に腫れや重だるさを感じるようになります。
末期
関節軟骨や半月板がほとんどすり減り、軟骨の下にある骨が露出して直接ぶつかり合う状態です。痛みはさらに強くなり、じっとしていても痛むようになります。骨のへりに骨棘(こっきょく)と呼ばれるとげができ、骨の変形が進むと、膝の曲げ伸ばしが難しくなります。また、軟骨のすり減りによって関節が緩くなり、膝周りの筋力も低下して不安定な状態になるため、歩行時にはシルバーカーや杖などの補助用品が必要になります。
変形性膝関節症の検査・診断
変形性膝関節症の診断には以下のような検査を行います。
問診・診察
発症時期や症状など詳しいお話を伺いします。また、関節の動き、腫れや痛み、変形の有無などを確認します。
X線検査
X線を使用して骨の撮影を行い、膝関節の骨の変形を調べ、硝子軟骨の下の骨の硬化や骨棘の有無などを確認します。また、骨と骨の間隔から軟骨のすり減り具合を推測することも可能です。当院では「FPD(Flat Panel Detector:フラットパネルディテクタ)」という機器を導入しており、従来よりも被爆量が少なく、撮影時間も短縮できるため、検査に伴う患者様のお身体への負担を軽減できるのが大きなメリットです。
エコー検査
超音波を用いて、X線検査では確認が難しい早期の骨棘や靭帯、半月板の状態を確認します。
※他の疾患との鑑別が必要になる場合などは、上記の検査以外にもMRI検査や血液検査、関節液検査などを行うこともあります。
変形性膝関節症の治療
変形性膝関節症には、手術療法と手術以外で症状の緩和を目指す保存的治療が主流ですが、近年では、メスを使わずに痛みなどを効果的に改善する再生医療も登場しています。
通常、保存的治療から開始し、症状が改善しない場合や、さらに症状が悪化する場合には再生療法や手術療法を検討します。
保存的治療の種類
- 薬物療法
つらい膝の痛みを緩和する治療で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服、湿布や塗り薬などの処方を行います。
- 物理療法
炎症の軽減や柔軟性を高める超音波治療や、患部の血行を良くする赤外線治療などで症状の緩和を目指します。
- ヒアルロン酸注射
ヒアルロン酸は元々体内に存在し、関節の動きを滑らかにする潤滑油の働きや、衝撃を和らげるクッションのような働きをしています。変形性膝関節症になると関節内のヒアルロン酸の濃度が低下するため、患部にヒアルロン酸を注入して関節の動きを良くすることで、痛みを和らげます。
- 運動療法
膝関節周辺の筋肉をほぐすストレッチや、膝周りの筋肉を鍛えるトレーニングで軟骨や骨にかかる負担を分散させます。運動療法には即効性はありませんが、継続することで消炎鎮痛剤以上の痛みの緩和効果があると言われており、特に初期~中期の患者さんでは手術を回避できる可能性も高くなります。当院のリハビリテーションは担当制であり、理学療法士が1対1で患者様に適した治療や指導を行いますので、安心して治療を受けていただくことが可能です。
- 装具療法
足底版(インソール)で体重のかかる位置を調整するほか、サポーターで膝の安定性を高めます。
手術療法について
保存的治療では痛みが改善せず、日常生活に支障をきたす場合は手術を検討します。変形性膝関節症の手術には以下のような種類があり、患者さんの年齢や体力、ご希望などを考慮して手術方法を選択します。
- 関節鏡手術(かんせつきょうしゅじゅつ)
半月板の損傷や滑膜炎*4による痛みが出ている場合に行う手術です。膝に小さな穴を数個開け、関節鏡と呼ばれる内視鏡を挿入して、変性した軟骨を削りとるほか、損傷した半月板の処置(切除または縫合)を行い、関節内をきれいな状態にすることで痛みなどの症状を改善します。
*4 関節包の内面にある膜に起こる炎症。
- 高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)
脛骨や大腿骨に切り込みを入れて脚の傾きを矯正し、ねじとプレートで固定して膝関節の骨を正しい位置に矯正します。65歳未満で骨の変形が軽度~中期の方までが適応になります。
- 人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)
膝の関節を切り取り、チタン合金やポリエチレンなどの耐久性の高い素材で作られた人工関節に置き換える手術です。進行した変形性膝関節症が適応となります。
人工関節置換術には膝関節全体を人工関節に置き換える「人工関節全置換術(TKA)」と、変形が進行した一部分だけを置き換える「人工関節単顆置換術(UKA)」の2種類があります。
※手術治療が必要になる場合、石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。
変形性膝関節症の新治療「再生医療(CPRP-FD療法)」について
当院では、従来の保存治療では痛みが治まらない方や、手術の適応と言われたものの手術には抵抗があるという方、さらに高齢で手術ができない方などに、新たな選択肢として「CPRP-FD療法」という再生療法(バイオセラピー:人の血液や細胞を利用して行う治療)をご提案しております。
CPRP-FD療法とは?
人の身体には、損傷した組織を回復させる自己再生能力(自然治癒力)が備わっています。
血液中に含まれる血小板にはさまざまな種類の成長因子が含まれており、何らかのケガなどで出血をしてしまっても、いつの間にか傷がふさがり、かさぶたになって治るのは、この血小板の高い再生能力によるものであると考えられています。
整形外科で行う再生療法では、この血小板の高い再生能力を活用し、痛みの改善や早期治癒を目指します。「多血小板血漿(たけっしょうばんけっしょう:PRP)*5」と呼ばれる血小板を多く含む液体を患部に注入する「PRP療法」は、PRPに含まれる成長因子がつらい痛みを緩和し、治癒を早める効果があるとして、近年、変形性膝関節症などの関節疾患やスポーツ選手のケガ治療などに多く用いられています。
*5 多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma):患者さんから採取した血液を遠心分離器にかけ、血小板が豊富な部分だけを抽出したもの。50mlの血液から5ml程度抽出される。
当院で導入している「CPRP-FD療法(Cell-free Platelet-Plasma Freeze Dry)」は、このPRP療法の進化版とも言えるもので、PRPから必要な成長因子だけを抽出して活性し、専用のフィルターで白血球などの細胞成分を取り除くセルフリー加工(無細胞加工)を施すことで、より成長因子が損傷部に届きやすくなっているのが特徴です。
組織を修復する作用や抗炎症作用、さらに関節軟骨の破壊を誘発する「サイトカイン」を減らす作用のある成長因子が通常のPRPよりも多く含まれているため、より高い除痛効果が期待できます。また、凍結乾燥(フリーズドライ)加工を行うため、成長因子の濃度が低下することなく常温で6か月間保存でき、患者さんのご都合の良い時に治療を行うことが可能です。
CPRP-FD療法のメリット
CPRP-FD療法は、注射で成分を注入しますので、手術のように切開する必要がなく、外来での治療が可能です。また、患者さんご自身の血液を使用することから、拒絶反応やアレルギー反応が起こりにくい安全な治療であり、何回でも受けていただくことができます。
さらに、一度の治療で2年程度効果が持続するのも大きなメリットで、従来のPRP 療法に比べ、腫れや痛みも少ないのが特徴です。
一般の薬剤とは異なり、個人の血小板に含まれる成長因子を活用するため、効果には個人差がありますが、当院では、治療を受けた9割の方の痛みが半分程度に軽減されるなど、非常に高い治療効果が得られています。ただし、CPRP-FD療法は注射をして終わりではなく、治療後のリハビリをしっかりと行うことで効果が高まるため、当院では、在籍する8名の理学療法士が治療の経過を観察し、丁寧にアフターフォローを行っております。
再生医療についての詳しい情報は、こちらの記事をお読みください
よくある質問
変形性膝関節症の予防にはどのようなことに気を付けたら良いでしょうか?
変形性膝関節症の予防には、日頃から膝に負担がかからないように以下のようなことに気を付けて生活することが大切です。
- 正しい姿勢を保つ
立つ時や歩く時は重心が偏らないように正しい姿勢を意識しましょう。
- 生活スタイルの見直し
床に座る、布団に寝る、和式トイレなど、和式の生活スタイルは膝に大きな負担がかかります。椅子やベッド、洋式トイレなどを使う洋式の生活スタイルに変えて、膝への負担を減らしましょう。
- 体重のコントロール
体重が増えると膝に罹る負担も増えるため、適切な体重管理を行いましょう。
- 膝を冷やさない
膝が冷えて血流が低下すると筋肉の動きが悪くなり、痛みが出やすくなります。保温のためのサポーターや膝かけ、入浴などで膝を冷やさないように気を付けましょう。
- 適度な運動
運動不足になると、膝周りの筋肉が衰えて不安定になり、関節にかかる負担が増してしまうため、日頃から、膝の筋力を高めるトレーニングや柔軟性を高めるストレッチなどを行いましょう。
ウォーキングなどの有酸素運動も効果的ですが、過度な運動は逆に膝を痛めることもあるため、痛みがある場合には無理をしないことも大切です。
再生療法はどのような流れで行いますか?
CPRP-FD療法をご希望の場合、お電話でご予約をお願いしております。
治療を行うにあたり、事前の採血が必要です。実際の治療は採血後、1か月程度が目安となり、治療後は運動療法を併行して行っていきます。数日で効果が出る患者様もいらっしゃいますが、通常は1か月程度で効果が見え始め、2~3か月後により高い効果を感じられる方が多いです。
なお、CPRP-FD療法は保険適用がなく自費での治療となりますが、当院ではより多くの方に治療を受けていただくため、費用もできる限り抑えております。
CPRP-FD療法とヒアルロン酸注射との違いはなんですか?
どちらも注射で有効成分を注入する治療ですが、その目的や効果には大きな違いがあります。
ヒアルロン酸はあくまでも一時的に痛みを抑えるものであり、時間が経つと痛みは再発し、病気の進行を抑える効果は期待できません。
一方、CPRP-FD療法は、身体に備わった自然治癒力をサポートする治療であり、即効性はありませんが、痛みの軽減だけでなく、組織の修復、さらに変形の進行を抑えるといった効果も期待されています。新しい治療のため、軟骨を再生する効果についてはまだ十分なデータはありませんが、血管が通っておらず一度損傷してしまうと自然治癒が難しい軟骨や靭帯の痛みを和らげ、進行を抑える画期的な治療として、近年大きな注目を集めています。
まとめ
変形性膝関節症の最も大きな要因は加齢であり、誰でも罹る可能性がある疾患ですので、年齢によって起こる膝の症状や違和感を見過ごさないことが重要です。
当院では、お一人お一人の患者様の状態を正確に見極め、痛みの改善はもちろん、生活の質の向上を目指して治療を行います。患者様の年齢やライフスタイルを考慮した上で、従来からの保存治療や手術療法に加えて、近年登場した再生医療も含めて、幅広い選択肢から治療法をご提案させていただきます。膝の違和感や痛みにお悩みの方は当院にご相談ください。