テニス肘やゴルフ肘を予防するためには肘の疲労を溜めないことが大切です。
スポーツや仕事で日頃から肘や腕を酷使している方は、こまめにしっかりと休養を取り、肘に張りや痛み、違和感を生じた時は患部のアイシングを行い、安静を保ちましょう。
肘のストレッチは発症予防にも有効です。痛みが出た時だけでなく、毎日の習慣にして継続しましょう。また、運動時のフォーム(持ち方、姿勢、身体の使い方など)や運動量の見直しを行い、肘に過度な負担がかかっていないかを確認することも大切です。
テニス肘・ゴルフ肘とは、手の使い過ぎ(オーバーユース)によって起こる肘の痛みのことであり、肘の外側に痛みが出るものを「テニス肘」、肘の内側(小指側)に痛みが出るものを「ゴルフ肘」と呼んでいます。その名の通り、どちらもテニスやゴルフの愛好者に多く発症する代表的なスポーツ障害*1ですが、必ずしもスポーツが原因で発症するとは限らず、実際には仕事や家事など日常生活の中で繰り返す動作で腕を使い過ぎて発症するケースも多く見られます。
*1スポーツ時に繰り返し行う動作によって生じる慢性的な痛み
軽症の場合、しばらく安静にしていると痛みが軽快する場合が多いですが、症状を放置していると痛みが徐々に悪化し、スポーツ活動はもちろん、日常の基本動作にも支障をきたすようになるため、肘に痛みが生じた時は無理せず休養をとり、早期に適切な治療を受けましょう。
肘関節(ちゅうかんせつ)は、肩から繋がる上腕骨と、前腕部(肘下)にある橈骨(とうこつ)、尺骨(しゃっこつ)という3本の骨で構成されている蝶番(ちょうつがい)のような関節です。
これらの骨は複数の靭帯によってしっかりと繋がっており、関節の周りにある筋肉や腱などの軟部組織が関節を支え、安定させることでスムーズな腕の曲げ伸ばしを可能にし、ものを掴む、持ち上げる、といった動きができるようになっています。
テニス肘は、肘関節の外側の骨(外側上顆)に付着している筋肉や腱などに炎症が起きて痛みを生じる疾患です。正式には「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」という疾患名ですが、中高年のテニス愛好家の発症が多いことから、通称「テニス肘」と呼ばれています。
外側上顆には、手首を反らせたり、指を伸ばしたりするための筋肉(短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、総指伸筋)が付いており、手首を反らす動作を繰り返し行い、これらの筋肉を使いすぎると付着部の腱(おもに短橈側手根伸筋)に炎症が起こり、痛みを生じます。
テニス肘の最大の原因は、肘の使い過ぎ(オーバーユース)です。
テニスのストロークを繰り返すことで発症するケースが多く、頻繁に練習を行っている場合(週3回以上)や、競技を始めて日が浅く、身体をうまく使えず肘だけで無理にボールを打っているような場合は発症リスクが高くなるため注意が必要です。テニス以外のスポーツや仕事、家事、育児などで、手首・肘・前腕の筋肉を酷使して発症するケースもあります。
また、テニス肘は40代以降に発症数が増加することから、加齢による腱の付着部の変性も発症要因の一つと考えられています。特に女性は筋力が弱い上、家事で腕を使う機会が多いことから、中高年の主婦の方の発症も多く見られます。
・発症リスクの高いスポーツ
テニス(おもにバックハンド)、バドミントン、卓球、ゴルフなど
・発症リスクの高い人
運送業、料理人、大工、パソコンのキーボード、マウス作業が多いデスクワーク、主婦(家事、育児)、スマートフォンを日常的に長時間使う方など
ラケットを振る時(おもにバックハンド)に痛みを生じるのが特徴で、テニスプレーヤーの3~5割程度の方が経験するとも言われています。その他、ドアノブを捻る、タオルを絞る、手の甲を上にしてものを持ち上げるなど、手首を使う動作をした時に、肘の外側(親指側)の骨の出っ張った部分(外側上顆)から前腕部分にかけて痛みを生じます。
通常、動作をした時に痛みが起き、しばらく休むと痛みが治まりますが、進行するにつれて安静時にもズキズキとした痛みが続くようになり、腫れや熱感を伴うこともあります。重症になると、テニスなどのスポーツはもちろん、コップを持つことができなくなるなど、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
ゴルフ肘は、肘関節の内側の骨(内側上顆)に付着している筋肉や腱などに炎症が起きて痛みを生じる疾患です。正式には「上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)」という疾患名ですが、中高年のゴルフ愛好家に多く発症するため、通称「ゴルフ肘」と呼ばれています。
内側上顆には、手首や指を曲げるための筋肉(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、長掌筋、円回内筋)が付いており、手を曲げる動作やものを強く掴む動作を繰り返し、これらの筋肉を使い過ぎることで付着部の腱に炎症が起こり、痛みを生じます。
ゴルフ肘の最大の原因は、テニス肘と同様、肘の使い過ぎ(オーバーユース)です。
ゴルフのスイング動作を繰り返し行うことで発症するケースが多く、特にスイング時に脇が開いていたり、体幹を使わずに手先でスイングしていたりするなど、フォームの安定しない初中級のゴルファーに発症しやすいと言われています。ゴルフ以外にも手首や肘を酷使するスポーツ、仕事や家事、育児などで発症するケースもあります。また、加齢による筋力の低下や筋肉の柔軟性が失われることで付着部の腱が傷み、炎症が起こるケースもあります。
・発症リスクの高いスポーツ
ゴルフ、テニス(おもにフォアハンド)、やり投げ、野球(投球動作)など
・発症リスクの高い人
重い物の運搬や牽引、ハンマーを打つなどの重労働、パソコンのキーボード、マウス操作が多いデスクワーク、主婦(家事、育児)、スマートフォンを日常的に長時間使う方など
手首を内側に曲げたり回したりする時や、手を強く握った時などに肘の内側(小指側)の骨の出っ張った部分(内側上顆)から前腕部分にかけてズキズキとした痛みを生じます。肘の内側にある「尺骨神経(しゃっこつしんけい)*2」がダメージを受けていることも多く、薬指や小指にしびれを伴うケースもあります。軽症の場合、動作時のみ痛みが生じますが、進行すると安静にしている時にも痛みが続くようになり、日常生活に支障をきたします。
*2薬指や小指の感覚を支配する神経。
テニス肘やゴルフ肘の診断には以下のような検査を行います。
自覚症状や発症時期、スポーツ歴などを詳しくお伺いします。また、実際に肘を動かして痛みを誘発する以下のようなストレステストを行うことでテニス肘やゴルフ肘の診断が可能です。
・トムセンテスト
肘を伸ばし、手首を上に反らします。医師が逆の下方向に力を加え、肘の外側に痛みが出るかを調べます。肘の外側から前腕にかけて痛みが出る場合はテニス肘の可能性があります。
・チェアテスト
椅子を持ち上げた時に痛みが誘発されるかを調べます。肘の外側から前腕にかけて痛みが出る場合はテニス肘の可能性があります。
・中指伸展テスト
医師が中指を上から抑え、患者さんが中指を上に持ち上げるようにした時に痛みが誘発されるかを調べます。肘の外側から前腕にかけて痛みが出る場合はテニス肘の可能性があります。
・手関節屈曲テスト
肘を伸ばし、手をグーにして握ります。手首を曲げた状態から医師が手首を伸ばす方向に押し、痛みが誘発されるかを調べます。肘の内側から前腕にかけて痛みが出る場合はゴルフ肘の可能性があります。
X線を使用し、骨の状態(変形や骨折の有無)を調べます。通常、腱の炎症であるテニス肘やゴルフ肘の場合、骨に異常は見られませんが、他の疾患との鑑別のために行います。
※その他、必要に応じて超音波検査(エコー検査)やMRI検査などを行うこともあります。
テニス肘とゴルフ肘の治療の基本は、肘の負担を減らして安静を保つことです。
軽症の場合、肘の安静を保ち、痛みを和らげるための保存的治療を行うことで痛みを改善することが可能です。また、当院では、従来からの治療に加え、新たな治療の選択肢として「体外衝撃波治療」も導入しております。
上記のような治療を行った場合でも、痛みが治まらず、日常生活に支障をきたす場合には手術を検討する場合もあります。
・安静の保持
痛みが出る動作をできるだけ避け、肘の筋肉の負担を軽減します。一時的にスポーツを休止する場合もあります。
・薬物療法
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や外用薬、塗り薬などで痛みを緩和します。
痛みが特に強い場合、少量のステロイドと局所麻酔剤を使用した注射を行うこともあります。ステロイド注射は即効性があり、効果的に痛みを和らげることができますが、筋肉や腱の劣化を引き起こす可能性があるため、頻繁に行うことはできません。
・装具療法
テニス肘用のバンド(エルボーバンド)やテーピングで筋肉の動きをブロックし、肘にかかる過度な負担を軽減します。
・理学療法(リハビリテーション)
アイシング(急性期のみ)や温熱治療、電気治療、超音波治療などで痛みを軽減します。
強い痛みが治まってきたら、肘の負担を軽減するためのマッサージやストレッチなども開始します。リハビリテーションにはステロイド注射のような即効性はありませんが、長く継続することで高い治療効果が期待できます。当院のリハビリテーションは担当制となっており、担当の理学療法士が患者さまの状態に合わせた治療・指導を行いますので、安心して治療を受けていただくことが可能です。
当院では、テニス肘やゴルフ肘のつらい痛みを改善する新たな治療として「体外衝撃波治療」を導入しております。体外衝撃波治療とは、疼痛性疾患(痛みを伴う疾患)の除痛を目的に、ヨーロッパを中心に普及した治療です。高出力の圧力波(衝撃波)を照射し、末梢神経に作用して痛みを取り除くとともに、微細な損傷を作ることで細胞の再構築を促し、骨などの組織を修復する作用が期待できるのが特徴で、一時的な痛みの緩和だけでなく、組織を根本的に治す新しい治療として近年、日本国内でも注目を集めています。
治療時には軽い痛みを伴いますが、麻酔の必要はなく、重い副作用なども報告されていません。
現在、テニス肘やゴルフ肘の治療では保険適用が認められていないため、通常は自費診療で行われることが多いですが、当院ではより多くの患者様に治療を受けていただけるよう、通常のリハビリテーションに組み込み、特別な料金を頂くことなく治療を提供しております。
体外衝撃波治療にご興味をお持ちの方はお気軽にお尋ねください。
・1回の治療時間:5~10分程度 ※予約の必要はありません。
・治療頻度:1~2週間に1回程のペースで通常3回程度
※治療の回数・効果には個人差があります。
上記のような治療を続けても、痛みが治まらない、もしくは痛みが悪化する場合、さらに再発を繰り返すなど日常生活に著しい支障をきたす場合には手術を検討します。
テニス肘・ゴルフ肘の手術には、患部を切開、もしくは内視鏡を使用して傷んだ腱膜の切除を行う方法などがあります。「滑膜ひだ」と呼ばれる組織が関節にはまり込んで痛みが出ている場合には、滑膜ひだも同時に切除することもあります。
※手術が必要になる場合には、石巻赤十字病院を始めとする提携先病院をご紹介します。
テニス肘やゴルフ肘を予防するためには肘の疲労を溜めないことが大切です。
スポーツや仕事で日頃から肘や腕を酷使している方は、こまめにしっかりと休養を取り、肘に張りや痛み、違和感を生じた時は患部のアイシングを行い、安静を保ちましょう。
肘のストレッチは発症予防にも有効です。痛みが出た時だけでなく、毎日の習慣にして継続しましょう。また、運動時のフォーム(持ち方、姿勢、身体の使い方など)や運動量の見直しを行い、肘に過度な負担がかかっていないかを確認することも大切です。
日常生活の中で肘や手を使わずに生活をすることは難しく、多少の痛みや違和感があっても無理して使い続けているという方も少なくありません。しかし、テニス肘やゴルフ肘の場合、最初は痛みが軽いものの、適切な治療を行わないと痛みが慢性化し、治療に長い年月がかかってしまうこともあります。症状の進行を抑え、痛みを悪化させないためにも初期の段階で治療を開始することが大切です。肘に張りや違和感や痛みを生じた時は見過ごさず、早期にご相談ください。