疾患
disease

母指CM関節症

母指CM関節症は、ものを握ったり、つまんだりする時に親指(母指)の付け根部分に痛みを生じる疾患です。中高年に多い変形性関節症の1つであり、進行するにつれて痛みが悪化し、親指の関節の変形を引き起こすこともあるため、早期に適切なケアを行うことが大切です。

母指CM関節症とは

母指CM関節*1とは、親指の付け根と手首の間にある小さな関節のことです。

手の親指(母指)は、他の指と向き合い、掴んだものを安定させる役割があり、曲げる・伸ばす・閉じる・回すなど柔軟に動く構造になっています。親指の付け根部分に位置するCM関節は、こうした親指の動きをコントロールする重要な関節で、可動域がとても大きいため、日頃から負担がかかりやすくなっています。

*1 CM 関節の正式な英語名は「Carpometacarpal Joint」で指の付け根部分の関節のこと。

母指CM関節症は、CM関節内の軟骨がすり減り、関節の滑膜(関節を包む膜)に炎症が起きてしまう疾患です。発症すると、「ドアノブを回す」「タオルを絞る」など、親指に力を入れる動作をした時に、手首近くにある親指の付け根部分にズキっとした痛みを引き起こすのが特徴です。症状が進行すると骨と骨の間でクッションの役割をしている軟骨が失われ、骨同士が直接ぶつかるようになり、関節が腫れて痛みが増すほか、親指が動かしにくくなり、骨の変形を引き起こすこともあります。

母指CM関節症は、加齢や手の使い過ぎなどさまざまな原因で起こることがあります。

私達は、一日の中で「ものを掴む」「握る」といった動作を頻繁に繰り返しているため、痛みが強くなると仕事や家事など日常生活にも大きな支障をきたします。親指の付け根の痛みや違和感に気付いた時は放置せず、早期に適切な治療を行い、症状を悪化させないことが重要です。

(図)母指(親指)の構造

母指CM関節症のセルフチェック

以下のような症状が見られる場合、母指CM関節症の可能性があります。

  • ペットボトルやビンの蓋を開ける時に痛みが出る
  • ドアノブを回す時に痛い
  • タオルを絞る時に痛い
  • 親指の付け根が腫れている
  • 字を書く時に痛みが出る
  • 親指が動かしにくい
  • 親指が変形している

母指CM関節症の原因

母指CM関節症は主に以下のような原因で起こります。

手の使い過ぎ

私達は、仕事や家事など、日々の日常生活の中で毎日手を酷使しているため、CM関節には常に負担がかかり続けています。長期間にわたり負担が蓄積された結果、関節軟骨の摩耗が進み、痛みを生じやすくなります。そのため、日中さまざまな家事を行う主婦の発症が多いほか、ゴルフやテニスなどの親指に強い負担がかかるスポーツを頻繁に行う方、手芸など手先を使う細かい作業を行う方、さらにピアニストや料理人など手を酷使する職業の方なども発症のリスクが高くなります。

加齢・老化

年齢を重ねると骨の新陳代謝が低下して関節内の軟骨がすり減りやすくなるため、中高年以降は手を酷使するスポーツや作業をしていない方でも発症のリスクが高くなります。

女性ホルモンの分泌の低下

女性の場合、閉経に伴い、「エストロゲン」と呼ばれる女性ホルモンの分泌が低下します。

エストロゲンは、女性らしい身体を作るほか、関節や腱などの柔軟性を保つ作用もあるため、分泌量が低下する更年期以降(40~70代)に発症のリスクが高まります。

その他

若い年代でも、骨折など、過去に負った親指の外傷・怪我が原因で起こるケースもあります。

母指CM関節症の症状

母指CM関節症の主な症状は、親指の付け根に起こるズキっとした痛みや違和感です。

発症初期の症状は、ビンのふたを開けた時など親指に力が入る動作をした時にのみ起こりますが、軟骨がすり減って骨同士が直接ぶつかるようになると、じっとしている時でも痛みや熱感が続きます。

さらに悪化すると、関節が亜脱臼(正常な位置からずれて外れかかる)して親指が外側に開きにくくなるほか、親指の付け根部分が手のひら側に入り込み、指先部分が外側に向かって伸びる「スワンネック(白鳥の首)変形」が起こるのも大きな特徴です。

母指CM関節症の検査・診断

母指CM関節症の診断には以下のような検査を行います。

診察・触診

症状を詳しくお伺いします。また、母指の付け根を押す・捻るなど、力を加えながら痛みを誘発させるストレステストを行い、腫れや骨の変形、痛みの出る場所などを確認します。

X線検査

X線を使って患部の撮影を行い、骨の状態を調べます。軟骨は柔らかいためX線画像には写りませんが、骨と骨の間隔が狭くなっている場合には軟骨がすり減っていることが分かります。また、すり減った軟骨を補うために周辺の骨が膨らみ、「骨棘(こっきょく)」と呼ばれる骨のとげが生じていることもあります。

血液検査

母指CM関節症は、リウマチによって起こる関節炎と症状が似ているため、採血を行い、血液中の「リウマトイド因子」の有無を調べることで、リウマチとの鑑別を行います。

また、血液中の炎症反応を調べることにより、重症度の判定にも役立ちます。当院では院内採血システムを導入しているため、患者さまをお待たせすることなく、検査した当日に結果をお知らせすることが可能です。

母指CM関節症の治療

母指CM関節症は、患部の安静が基本となります。軽症の場合、手を使わないよう安静を保つことで改善するケースも多いですが、痛みが強い場合や変形が進んでいる場合には、注射や外科手術が必要になります。また、当院では積極的に痛みを改善する新たな治療方法として「体外衝撃波治療」も行っております。

装具療法

患部の安静を保ち、CM関節を保護するための装具を使用します。固めの包帯を親指から手首にかけて8の字に巻いたり、テーピングで固定したりすることも有効です。

軽症の場合は装具で固定し、安静を保つことで炎症が治まり、痛みが落ち着くケースが多いです。

薬物療法

患部の痛みが強い時には、湿布や内服薬などの消炎鎮痛薬を使用して痛みを和らげます。

関節内注射(ステロイド注射)

通常の消炎鎮痛薬では痛みが引かず、日常生活に支障をきたす場合にはCM関節内のステロイド注射を行います。ステロイド注射は、炎症や腫れ、痛みを和らげる効果が大きいものの、頻繁に繰り返すと関節軟骨の損傷が進んでしまうため、十分な間隔(3か月~半年程度)を開ける必要があり、治療回数もできるだけ抑えることが大切です。

手術

ステロイド注射を行っても症状が改善しない場合や、変形が進んでいる場合には手術を検討します。母指CM関節症の手術は以下の2種類があり、生活のスタイルに合わせて選択します。手術は、全身麻酔もしくは腕の局所麻酔で行い、手術後1か月程度はギプスで固定して安静を保つ必要があり、その後、リハビリを開始します。

関節形成術

大菱形骨(だいりょうけいこつ)を切除し、腱を使って関節を作り直します。

手に力が入りにくくなるものの、関節の動きを維持することが可能です。

関節固定術

CM関節の表面にある傷んだ軟骨を削り、ワイヤーやネジを使って関節を固定します。

手の力は入りやすくなるものの、以前に比べると手の動きが若干悪くなります。

体外衝撃波治療

消炎鎮痛薬などの対症療法を行っても痛みが引かない場合、当院では新たな治療の選択肢の1つとして、「体外衝撃波」による治療を行っております。

体外衝撃波治療とは、疼痛性疾患(とうつうせいしっかん:痛みを伴う疾患)の除痛を目的に、ヨーロッパを中心に普及した治療です。高出力の圧力波(衝撃波)を照射し、末梢神経に作用して痛みを取り除くとともに、微細な損傷を作ることで細胞の再構築を促し、組織を修復する作用が期待できます。一時的な痛みの緩和ではなく、患部の組織を根本的に治すことができるため、近年、国内でも注目を集めており、母指CM関節症の痛みの軽減にも有効と考えられています。

治療時には軽い痛みを伴いますが、麻酔の必要はなく、重い副作用の報告などもありません。

現在、母指CM関節症の治療では保険適用が認められていないため、通常は自費診療で行われることが多いですが、当院ではより多くの患者さまに効果を実感していただけるよう、通常のリハビリテーションに組み込み、特別な料金を頂くことなく治療を提供しております。

体外衝撃波治療にご興味をお持ちの方は、医師またはスタッフにお気軽にお尋ねください。

  • 1回の治療時間:5~10分程度 ※予約の必要はありません。
  • 治療頻度:1~2週間に1回程のペースで通常3回程度 

※治療の回数・効果には個人差があります。

(画像)体外衝撃波治療器

母指CM関節症の予防

手を使う動作は日常生活の中でも数多く、発症を完全に防ぐことは難しいですが、日頃から予防のための対策やこまめなセルフケアを行い、発症や進行のリスクを下げることが大切です。

手(特に親指)を使い過ぎない。

家事や編み物などの手を使う作業を行う際は、長時間続けて行わず、適度に休憩をとりましょう。

同じ作業ばかり続けていると、関節が硬くなってしまうため、手のひらや手首、指を伸ばす簡単なストレッチもおすすめです。また、すでに痛みや違和感などの自覚症状がある場合には、サポーターや装具を使用し、炎症を悪化させないようにすることも大切です。

大豆・大豆製品の摂取を心掛ける。

大豆に含まれる「大豆イソフラボン」は、更年期以降、減少する女性ホルモン(エストロゲン)と似た作用があり、母指CM関節症の発症予防にも有効だと考えられているため、日頃から豆腐や納豆、味噌などの大豆食品を積極的に摂るように心掛けましょう。

また、更年期女性の予防対策として、女性ホルモン(エストロゲン)に似た構造を持つ「エクオール」というサプリメントも有効です。大豆イソフラボンから作られるエクオールには弱いエストロゲンのような作用があり、腱や腱鞘の炎症を防ぐ効果が期待できます。

よくある質問

親指に痛みがある時は、温めるのと冷やすのとどちらが良いのですか?

基本的に痛みが出たばかりの急性期は冷やしましょう。患部に炎症が起きて熱を持っている場合には10~15分程度冷やすと良いでしょう。一方、痛みが何日も続き、慢性化してしまった場合は温めることが大切です。患部の血流が改善することで痛みを和らげることが可能です。
また、血行が悪くならないよう、普段から体を冷やさないことも大切です。

まとめ

手の指、特に親指は、日常生活の中で日々酷使され、負担のかかりやすい部分です。

発症初期は痛みも軽く、しばらく休むと治ることが多いため、つい使い過ぎてしまいがちですが、放置したまま使い続けていると症状を悪化させてしまうため注意しましょう。

親指の痛みを引き起こす手の疾患は、母指CM関節症だけでなく、ドケルバン腱鞘炎やSTT関節症*2などがあり、症状も似ています。手首付近の親指の付け根に痛みや違和感がある時は自己判断せず、整形外科を受診して詳しい検査を受けることをおすすめします。

*2 舟状骨(Scaphoid)、大菱形骨(Trapezium)、小菱形骨(Trapezoid)から構成され、手関節の運動に関与している関節。CM関節の近くに位置し、痛みの出る場所もCM関節症と非常によく似ている。